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Tuesday, October 13, 2026

連載 国民の責任 8; 米国民へのお願い

  


国が戦争を始めた時、「国民に責任があるのか」、日本と米国について考えます。

 

今回は、米国について考えます。

 

既に連載「迫る多難な危機」の第4章で米国の混乱した状況を説明しました。

ここでは、米国民へのお願いと注意点を述べます。

 

米国民へのお願い

 

私が見る限り、世界は危機的な状況に突入している。

そして、これを止めるどころか増幅させているのがトランプ政権です。

ここ数年、プーチンのウクライナ戦争、AI革命、地球温暖化、米中対立等が加速している。

ここ1年半のトランプの采配で事態は悪化を深めているだけです。

トランプには、世界と米国を良い方向に導く意思と能力が無いのは明らかです。

一番の問題は、彼の独裁志向であり、虚言と悪事を厭わないことから見て、他国の独裁者と手を握る可能性が高い。

トランプ政権が倒れない限り、世界はより悪化する。

 

是非とも、良識ある米国民は、この中間選挙において圧倒的な勢いで民主党の議席を増やして欲しい。

これにより良識ある共和党穏健派の力を借りてトランプを弾劾して欲しい。

これが叶わなければ、トランプの独裁が完成し、世界から平和や民主主義は消えるだろう。

こうなれば米国は世界史に汚点を残すことになるかもしれない。

 

かつて米国は大戦への参戦以降、世界を救い、日本の再生にも尽力してくれた。

米国は素晴らしい発展を遂げ、アメリカンドリームは私たちの憧れの的でした。

しかし、今は変わってしまった。

 

 

注意していただきたいこと

 

米国の政治現状は、明らかに異常です。

これは半世紀の間、蝕まれて来たのを放置したからです。

この原因は複雑に絡まっているが、一言でいうと「驕りによる栄枯盛衰」でしょう。

米国社会の分断は致命的なまでに進んでいる。

これは放置された所得格差もあるが、差別と憎しみ合うように仕向けられた結果です。

ここ2年の間、私は米国の東西南北8州を1ヵ月以上かけて旅行して来ました。

町や人々は穏やかで、ホームレスにさえも親切な場面を幾度も見てきました。

私には、一部の米国民が煽られ、ヒステリックになり、政治利用されているように見えました。

 

そして、この分断は深刻なだけに、私は数か月前まで、米国が立ち直る事はないだろうと予測していた。

ちなみにエマニュエル・トッドは米国の再起は不可能と見ている。

しかし、9月中旬ぐらいから私の絶望は期待に変わり始めました。

だが今回、無党派層が反トランプに傾いても、共和党・トランプ支持層の支持率低下はあまり期待出来ないから、よくて上院下院の逆転止まりかもしれない。

 

そうなると中間選挙後に、次の苦難が待ち受けているように思う。

米国が再起するには、政治・社会・経済システムの一部改良ぐらいでは済まない。

根本的な改革―新自由主義からの脱却(金権政治・金融偏重・逆累進課税からの転換、労働権・福祉等公共の保護と規制の復活)が必要です。

これを実施するには、共和党との長く苦しい議会闘争が必要になり、目に見える成果の出現は10~20年後になるかもしれない。

経済格差が酷くなるのに、同じ年月を必要としたのですから、当然かもしれませんが。

米国民が、これを理解し耐えれるでしょうか?

なぜなら半世紀もの間、新自由主義が正しいと信じ込まされてきたのですから。

 

どうか、米国民に立ち直って欲しいと心から願います。

 


今一つ問題がある

 

それはMAGA派、福音派の問題です。

極論すれば、気の良い人々と信仰心の篤い人々が、半世紀をかけて大きなうねりを生んだ。

残念なことに、その方向は科学的な時代に逆行するものだった。

米国のクリスチャン白人層は、ヨーロッパと同じ出自であるにも関わらず、ヨーロッパに比べ世俗化が遅れている。

これは、彼らの想いと異なり、富裕層(既得権益層)とユダヤ人(イスラエル支援)に極上の恩恵をもたらした。

世俗化が遅れた経緯には、様々な理由があったでしょうが、結果だけを見れば、気の良い純粋な人々が煽られ利用されているとしか見えない。

 

これは非常に憂慮すべき状態であり、けして宗教だけの問題に済ませてはいけない。

中世ヨーロッパの魔女狩りと同様なことが大戦後に米国で起きました。

それは「赤狩り」の興奮が覚めても、その悪魔への敵意はベトナム戦争へに向かわせた。

かつて日本もドイツも、ファシズムの熱に浮かされ、すべての国民が飲み込まれ、破局まで突き進んだのですから。

 

私には、このMAGA派と福音派が持つ信念や熱量を、良い方向に向ける方法が思いつかない。

しかし、これらに対して危機意識を持つことは、社会をよくするために必要な事です。

 

米国民へ、厳しい事を書きましたが、かって日本も過ちを犯しました。

それへの反省の意味も込めて書きました。

どうか頑張ってください。

 

 

 

--目次---

 

1話;悪化の責任は誰に

2話;皇軍が選んだ道

3話;独裁に魅了された人々

4話;皇軍の軍人魂とは

5話;日本の戦争を振り返る

6話;軍備と敵について

7話;戦争に向き合う

8話;米国民へのお願い

 

 

これで、この連載を終えます。

お読み頂きありがとうございました。

 

 

Sunday, October 4, 2026

要約  迫る多難な危機  

 


「一時の自己満足の為に人類を破滅させては、神も悲しむだろう」

 

まえがき

 現在、深刻な危機が我々に迫っています。さらに大国の横暴が目に余るようになり、より危険度が増しています。今、我々と米国民が立ち上がらなければ世界は手遅れになります。

Make the world and people happy again!

 

 

 

世界は危機に晒されている   第一章の要約

 


 

 

 10を越える世界的な危機が我々に迫っている。戦争・紛争の増加、独裁国家の増加、経済格差の拡大、再来する巨大金融危機、投機マネーの暗躍、深刻さを増す地球温暖化、ITに続くAI革命の脅威、激しくなる国内の分断(右翼ポピュリズム)、分裂を始めた世界の協力体制等です。

 

しかし喫緊の課題は米国の独裁化で、これが完成してしまうと米国だけでなく世界が破滅する。

 

 

 

人類は危機を乗り越えて来た    第二章の要約

 

 今の米国を見ると、手の施しようがないようにも思えるが、人類は、様々な危機を幾度も乗り越えて来た。戦争の終結に向けて平和条約を締結した幾多の国々、独裁者や大国の侵略から独立を非暴力で勝ち取った国民、拡大した貧富の差の解消を目指した改革者、繰り返す金融危機への苦渋の対応、公害や環境破壊への多国間の協力体制、産業革命で対立を乗り越え民主社会を築き続けた労働者、社会の分断を未然に防いだ優れた指導者、世界の平和と幸福に貢献し続ける世界機関創立などがその例です。

 

 我々人類は、数千年の間、危機、苦難、社会や国同士の対立を乗り越え、より平和と幸福を勝ち取って来た。英知を持って行動すれば必ず道は開ける。

 

 

 

 

我々が直面している危機   第三章の要約

 

しかし、21世紀以降、世界は悪化の度合を急激に深めている。

 


 

 

 喫緊の課題を採り上げます。先ずはプーチンとウクライナ侵攻です。これは独裁者の常であり、放置すればヒトラーによる大戦の二の舞いになる。注意が必要なのはトランプがプーチンと繋がっている可能性が高い事です(事実を積み重ねれば見える)。

 

多くの国で、勢いを増す投機マネーの横暴さと税金逃れが格差拡大とインフレを亢進させ、福祉削減が追い打ちをかけるように国民を益々苦しめている。

 

 地球温暖化は、既に取返しのつかない状況に陥りつつある。長期戦になるが今から防止策の遅れを取り戻す必要がある。

 

いま始まったAI革命は、適切に制御出来れば、人類に大きく貢献するだろう。しかし、人知を超えたAIは人類最悪の脅威になる可能性が高く、既にこの危惧は現実になり始めた。放置すれば手に負えなくなる。

 


 

 悪いことに、世界から最も頼りにされていた米国でアメリカンドリームが潰え、貧困と絶望死が増えた結果、分断の嵐が吹き荒れ、遂にはトランプによる独裁が現実化して来た。この米国の悲劇をもたらした真因は、多くの先進国の経済にも深く根付き、各国で右翼ポピュリズムが吹き荒れ、世界は分裂を深めている。

 

 このまま行けば、米国は人類史に大きな汚点を残すか、最悪、世界と共に滅ぶかもしれない。

 

 

 

 

緊急に対応しなければならない危機   第四章の要約

 


 

 

「米国民は、なぜこんな悲惨な道を歩み続けたのか?」の謎を解くことで、そこから脱出する方策が見える。

 

ポイントは三つある。

 大半の国民に取って希望が無くなり、生活が苦しくなったのは、80年代に始まる新自由主義(共和党レーガン大統領が始めた)にあります。これは規制のない自由市場、労働者(福祉政策低減も)を見捨てる、累進課税の撤廃、金融業界重視等が、長い年月を掛けて富裕層・大企業を繁栄させ肥大化させた。これがインフレを亢進させ、政策が富裕層・大企業にコントロールされるようになり、結果的に大半の国民の賃金が上がらなくなった。この悪弊は、日欧等の先進国にも共通しており、いずれ大問題になる。

 

 グローバル化やIT革命も災いしているが、この期間でさえ就業者数は着実に伸びていた。問題は労働者が適切に高賃金労働へと転職出来なかったからです。これについて北欧各国はうまく対応している。米国共和党は何ら手を打たなかった。民主党は高度知識社会対応で高学歴化を促したが、効果は限定的でした。移民は、低技能職で多少低賃金化を招いたが、米国経済や高齢化に貢献しているのは確実です。一部の治安悪化は、差別による経済格差を放置していることの方が影響している。

 

野放しの自由は腐敗と独占を生み、国民にとって取返しの付かない悲惨な状況を招いた。

 

 

 二つ目は、これらの事実を隠すために様々な目くらましが行われた来た事にある。共和党と大企業(FOX等も)が長年流して来た「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」の洪水があり、トランプが完成させた。既得権益層(笑い)が、単純な陰謀論「ディープステート(闇の政府)」をでっちあげて国民を洗脳したが、それを信じてしまうほど社会は分断され、右翼ポピュリズムが勢力を持つようになっていた。トランプ現象は当然の帰結でした。このオルタナティブ・ファクトの歴史は、ニューディール政策を貶める事に始まり、フロンガスやタバコの害を無害と偽り、気候変動は起きていないと言い募る事に象徴されている。さらに、21世紀以降、インターネットとSNSが加わり、フェイクや怒りに煽情されやすくなってしまい、選挙が操られるようになった。加えて最高裁が保守派に牛耳られた事で、金権選挙がまかり通るようになり、益々既得権益層に有利になってしまった。

 

こうして米国民は真実が見えなくなってしまい、操られるようになった。

 

 

 三つ目は、キリスト教原理主義(復古・懐古主義)、これは米国特有です。ヨーロッパのキリスト教は世俗化が進んでいるのですが、米国のこの教派は、西部開拓の名残で、信仰は回心(理性を失うほどの情熱)が重視されており、幾度も熱情に駆られ米国社会を揺り動かして来た。これに火が着いたのは、大戦後の赤狩り(共産主義)に象徴されるように、非白人移民の大量流入とリベラルな人権運動への危機感からでした。彼らの異常なまでの恐怖感と敵意は、多くの海外侵攻を後押しして来ました。また米国には裕福なユダヤ人が多い事から、イスラエル支援に繋がるハルマゲドン信仰も勢いを得たのでしょう。

 

 共和党は、この教派を選挙に取り込んだ事で勢力を拡大し、かつ彼らの政策が科学的・論理的な帰結である必要がなくなり、自由度が増した。実は、この手口は、多くの疲弊した国で行われ、権力奪還を目指す既得権益層が、原理主義的な教派を取り込むことで成功している. サウジアラビアのイスラム原理主義、プーチンのロシア正教、イスラエル、イランやインドでも見られます。この同盟は権力者と教派には利益が多いのですが、間違いなく国民にとっては悲劇になります。この宗教問題は、今後も深刻な問題を起こすことになるでしょう。

 

宗教は、地域と人々に安らぎをもたらすが、往々にして人々を盲目にする。

 

 

 

放置すれば最大の危機、どう対峙すべきか   第4と5章の要約

 

 米国民が、この中間選挙で政治を正常に戻すことが出来なければ、今後、非暴力で二度と再起は出来ないでしょう。是非とも、米国の良心を世界に示していただきたい。これに成功しなければ、プーチン、トランプ、イスラエル、中国、北朝鮮が、世界を戦火のるつぼに投じる可能性が現実味を帯びる。さらに幾多の重大危機を止める事が不可能になってしまう。

 

 どうか良識ある米国民は、科学と真実を尊重し、不道徳極まりない人物を廃して、かつて希望があり成功した自由民主主義社会を取り戻してください。米国の若い人は、現在、苦しい状況が続いており、世界の為とか独裁阻止よりも、日々の糧の方が先かもしれないが、トランプでは、絶対に悪化するだけです。理由は明らかです。彼の大言壮語・虚言、非科学的・非論理的、政策を理解しない、エゴ・独善的、どれをとっても、これからの困難な時代に彼が不適任であることは明白です。

 

 ヒトラーは演説で国民を魅了したが、所詮、一介の画生・兵卒であり、政策は素人でした。初期には周辺に逸材がいて、上手くやれたのですが、後に彼らはヒトラーによって粛清された。トランプのビジネスキャリヤは、倒産の連続で、スラップ訴訟多用で、何とかやってこれたところがある。信じるに値しない人物は避けるべきです。

 


 

 

最後に

 米国が立ち直ることは容易ではないが、世界と歴史を見れば、けっして不可能ではない。残念ながら日本の中枢を担う官僚が内向きなので、このような危機に即して役に立たない。申し訳ありません。しかし社会制度は北欧の福祉国家が参考になるので希望はあります。

 

 

 

ながらく拝読して頂きありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

Monday, July 24, 2017

デマ、偏見、盲点 20: 衆愚政治の恐ろしさ



*1


今日は、今、世界を席巻しつつある衆愚政治についてみます。
これは大衆迎合、ポピュリズム、右傾化、全体主義とも重なります。
世間ではこれを肯定する人々がまだ多数おり、危険な状態が続いている。



はじめに
皆さんはヒトラー総統やトランプ大統領は衆愚政治やポピュリズムを象徴する人物と思いますか?

言葉の厳密な定義は、学者でも意見が分かれていますので、気にしないでください。
イメージで結構です。
例えばヒトラーとトランプの似ている所はどのようなところでしょうか。

先ず、演説時の壇上のパフォーマンス、特に表情、手の扱いなどが似ています。
共に一貫性のある思想や政策がない(ヒトラーは適宜変節していった、トランプは支離滅裂か自由奔放)。
既存のエリート層、政治家、大企業、マスコミ、知識人を徹底的に否定する。
一方、我こそが大衆、労働者の味方で、雇用と労働条件向上を実現すると宣言する。
その達成手段は、自民族(ゲルマンかホワイト)だけの繁栄、他者(ユダヤかムスリム)を排除、そして力の行使(軍事力か経済力)で共通する。

二人は大変似ており、ヒトラーが衆愚政治によって生まれたのだから、トランプもも衆愚政治の産物と言えます。
それではなぜ、悲惨な歴史を知っているはずの人々が、未だにトランプを評価するのでしょうか?

トランプを肯定的に見る識者達の見解を要約すると以下のようになるでしょう。
一つは、彼らの多くは米国の共和党寄りのようで、単に民主党嫌いが理由のようです。
もう一つは、トランプが優れたトップの可能性を秘めいていると言うものです。

実は、ここに問題があるのです。
歴史的に見て、衆愚政治でトップになった人物は、その大言壮語なスローガンと破壊的な行動力が大衆から絶大な期待を集めていたのです。

衆愚政治のトップに共通する特徴があります。
彼らのほとんどは徳が無く下劣な品性の持ち主ですが、敵をやり込める口汚さなどの攻撃能力や大衆受けする芝居がかった振る舞いが前者の欠点を帳消しにして余りあるのです。
ヒトラーの場合は、クーデター未遂事件での収監時の態度が潔しとされ、トランプは身銭を切って選挙を戦ったことで好感されたように。
また共に、敵を徹底的に打ちのめします。
ヒトラーがスパイ紛いの汚い仕事をしていようが、トランプが税金を払わず、幾度も倒産して事業を拡大していようが人々は問題にしないのです。

衆愚政治の真の恐ろしさは、このようなトップを待ち望む人々がたくさん存在することなのです。
人々の期待を実現すると大風呂敷を広げ、行動力があると思わせれる人物が、衆愚政治のトップになるのです。
その結果、多くは破局に向かうのです。

破局に至る理由は簡単で、その手の行動力があると思われる人物は道理を顧みず、未来を深慮せず、他者を害することを厭わないからです。
社会が閉塞状態になったり、外からの脅威に晒されたと大衆が強く感じると、このような人物こそが、現状を打開できる人物と見なされ易くなるのです。
このことは米国で行われた心理学の泥棒洞窟実験が良く説明しています。

国が軍事的脅威に晒されると、粗野であっても、こわもてのトップが選ばれるのが常です。
衆愚政治から生まれたトップがいつも不幸をもたらすとは限らないが、社会が危険になる確率は高まる。


 
*2


衆愚政治の代表例
実は、世界史に名だたる衆愚政治の極め付きが2400年前にあった。
これは有名な古代ギリシャの都市国家アテナイで起きた。
この実に馬鹿げた悲惨な事件は、衆愚政治の愚かさをよく物語っています。

時は、紀元前415年、アテナイは200隻の軍船と数万の漕ぎ手と兵士をシチリアに向け出撃させた。
そして全滅するか、捕虜になってすべてが死んでいった。

戦史家トゥキュディデスはこの戦いを「ギリシャ史において、これ以上なく悲惨な敗北を喫し、完膚無きまでに打ち負かされた」と語っている。


 
*3

この戦いはなぜ始まったのか。
古代ギリシャとアテナイの絶頂期はペルシア軍を撃退した紀元前5世紀前半でした。
盟主アテナイは軍事力と軍事遠征で巨大な富を手に入れることに味を占め、やがてギリシャ全土が戦いに明け暮れるようになった。
その大きな戦争の一つがスパルタとアテネが勢力を二分して戦ったペロポネソス戦争(B.C.431-B.C.404)で、これが衰退の始まりでした。

アテナイは絶え間ない戦争で疲弊していたが、降ってわいたシチリアからの救援要請に、世論は慎重派と積極派に分かれた。
慎重派はアテナイの国力が前回の戦いから充分回復していない状況で、兵力が充分な手強いシチリアへの遠征は無謀だとした(これは的確な情報分析だった)。

すると、若い煽動家アルキビアデスは、シチリアは大きいとは言え、烏合の衆であり、気概のある相手ではなく、この際、支配権を拡大する絶好の機会だと訴えた。
そして大勢は決し、しかも大編成で行うことになり、彼は遠征軍の三人の司令官の一人に任命された。

ところが出撃すると、彼は神像破壊の容疑者としてアテナイから召喚を命じられます。
彼は日頃から傲慢で放埓であった為、敵が多く疑いがかけられたのです。
すると彼は敵国スパルタに亡命し、アテナイの情報を漏らし、スパルタにシチリア遠征を薦め、遂にアテナイ軍は殲滅されることになった。

なぜこんな裏切り者の軽薄なアルキビアデスの言をアテナイ市民は信じたのだろうか?
彼は名門貴族の出で、ソクラテスの弟子であり、演説家、政治家で、その美貌と才能によって市民に絶大な人気があった。
また彼は野心家で、それまでも遠征を焚き付けており、今回、成功すれば自分の名声と富が一層高まることをもくろんでいた。
彼の演説を聞いたアテナイの若者達は、昔の栄光の再来を夢見て、遠征に熱狂していったのです。
その後、アルキビアデスは各地で問題を起こし、ついには暗殺された。

この話には更に落ちがあります。
始め、アテナイはシチリアでの敗北を信じず、やがてパニックになった。
慎重派があれほど無謀だと指摘していたにも関わらず、現実逃避していたのです。

その後、アテナイの同盟国が次々と反旗を翻した。
その混乱の中、アテナイは民主政を捨て暴政にのめり込み、あらゆる面で衰退が加速していった。
ちょうどこの頃(B.C.399)、皮肉屋のソクラテスは濡れ衣を着せられ毒殺されることになった。
その後、アテナイはスパルタに占領され、さらに半世紀後(B.C.338)にはマケドニア王国に屈服し、ついに命脈は尽きた。


 
< 4. ソクラテスがアルキビアデスにシチリア遠征の中止を説く >


何が問題なのか
まさに、アテナイのこの一連の事件には「はじめに」で紹介した衆愚政治のパターンが凝縮されている。

閉塞状態に陥っていたアテナイ市民は、アルキビアデスの欠点には目もくれず、途方もない夢だからこそ飛びついたと言える。
彼は野心家で、大言壮語し、責任を取るどころか裏切りすら平気な人物でした。
そんな人物に振り回され、あれだけ栄華を誇り、民主政を生み出した国家が無惨な結末を迎えたのです。

もしアテナイの市民が煽動家アルキビアデスを信じなければ、または彼が生まれていなければアテナイは繁栄を続けることが出来たのだろうか?
この文章でアルキビアデスをヒトラーに替えたら・・・・。

大なり小なり、代わりの人物がこのトップの役を担うことになるでしょう。
もっとも、アルキビアデスやヒトラーほど優秀(極悪)ではなく、損失はまだ少なくて済んだかもしれませんが。
つまり、最も恐ろしいのはこのような人物をトップに崇める人々、偏向したマスコミ、権益擁護者の存在なのです。


 
*5


現在、あなた国のトップは、このアルキビアデスのような人物ではありませんか?
その人物は家柄が良く人気があり、大言壮語し、力に頼り、敵を激しく罵り、簡単に辞めたり、方針転換したり、都合が悪くなれば逃げ回る人物ではありませんか?

もし居るとすれば、衆愚政治を支える人々が多く居ることの証であり、それが減らない限り、同じようなことが続くことになる。
とりあえず、そんなトップは居ない方が良いのですが。


皆さん、くれぐれも注意願います。