Monday, February 26, 2018

デマ、偏見、盲点 25: 何がバブル崩壊と戦争勃発を引き起こすのか? 4





*1


今、私達が陥っている劣化に気付くことが重要です。
これは最近のことで、この劣化から逃れる手立てはあるはずです。


* これまでの論点の整理

投資家の貪欲がバブルを生み、そして抜け駆けの心理がバブル崩壊を招いた。

恐怖心が軍拡を加速させ、疑心暗鬼が戦争勃発を招いた。

これらの感情が一度暴走し始めると制止は困難でした。

今、人々はこの災厄をもたらす感情の暴走に何ら疑念を持たなくなった。
この劣化はこの30年ほど、特にここ数年のことです。
なぜ人々はこの劣化に気付かないのだろうか?



*2


* 基本的な誤解について

一つは、怒りの感情について誤解があります。

人類は進化の過程で優れた適応力を得て、脳内ホルモンがそれを可能にして来ました。
人は怒りを感じるとアドレナリンが分泌され、体が興奮状態になり、外敵に即応できるようになっている。
皆さんは強い怒りを感じた後、爽快な気分を味わったことはないでしょうか?
敵意や怒りの感情は、人によっては常習性のある麻薬のようなものなので、爽快感をもたらすことがある(文明社会では後悔するのが普通)。

当人は国や正義を思っての怒りだと思い込んでいるが、単に欲求不満の解消か、未発達な精神状態に過ぎないことが多い。



*3


もう一つ、愛国心への誤解もあります。

多くの人は愛国心を素晴らしい美徳だと思っているようです。
愛国心は共感の現れの一つで、共感は社会や家族の絆を強める重要なもので、霊長類、特に人類で最も進化した(脳内ホルモンが関与)。

但し、これも手放しで喜べない。
その理由は、共感を抱く同胞の範囲が感情的な直感(無意識下)で決まるからです。
共感が強くなると、逆に範囲外(異なる宗教、人種、文化、国、階層)の人々に強い敵意を持ち易くなるのです。

人類は進歩の過程で他の社会と多面的で複層的な繋がりを発展させ、その範囲を拡大し来たが、時折、逆行してしまうことがある。
今がその時です。

注意すべき事は、この敵意と愛国心が政治利用され、社会が容易に暴発に向かうことです(マスコミの関与を注釈1と2で説明)。



* 何が社会に起きているか?

バブル崩壊で言えば、今さえ景気が良けれ良いのであって、先の事は考えないことに尽きる。
米国で繰り返されるバブル崩壊と格差拡大が、社会の分裂と絶望を生み、遂には突飛な大統領が選ばれることになった。
格差を是正する対策はあるのだが、国民は即効性を謳った甘い公約に吊られ、同じ過ちを繰り返しては益々深みにはまってしまった。

戦争勃発についても同様で、即物的(武器)で即効性(威嚇)を謳う策が人気を博し、益々泥沼に足をとられることになる。
特に酷いのは日米ですが、多くの先進国も同様です。

つまり社会は刹那的になり理性を麻痺させており、ここ数年の劣化が著しい。


* 刹那的になった背景

これは平和ボケと20世紀前半に対する反動でしょう(この平和ボケは右翼の指摘とは真逆)。

三つのポイントがあります。

A: 今の政治指導者世代は大戦を知らない。
まして指導者が戦時中に成功した人物の後継者であれば戦争への反省より美化に懸命になる(世襲化している日本で極端)。

B: 世界中が異文化に敵対的になっている。
ハンチントンが指摘したキリスト教とイスラム教の対立は、19世紀後半以降の欧米列強の干渉と軍事行動が主因です。
(「何か変ですよ! 84: 何が問題か? 7」で解説しています)

C: かつての格差縮小策への反動が起きている。
20世紀初頭まで貧富の差は拡大していたが、その後、欧米は格差縮小策を実行し是正が進んだ。
しかし1980年代に始まる自由放任主義とマネタリズムによって格差は戻り、さらに拡大している(米英が先行)。

今、起きている安易な敵意や貪欲の高まりは主にこれらが原因です。

しかし、これではなぜ多くの国民が刹那的になったのか、つまり国政の歪み(癒着や腐敗)に無頓着で、社会改革に無気力になってしまったかを説明出来ない。


さらに以下のことが考えられます。

D: 大戦後、先進国は一度豊かさを満喫し、今は下降期にある。
豊かさを経験した後、1990年以降の経済は少数の富裕層に恩恵を与えているが、格差拡大で大多数の所得は横這いか低下している(英米で顕著、日本も後を追う)。

E: この半世紀の間に政財官の癒着が起こり、国民は政治に強い不信感を抱くようになった。
こうして先進国は軒並み投票率を下げ多党化している(北欧を除いて)。

F: 多くの国民(中間層)は、豊かさがこのまま続くとして保守的(逃げ腰)になった。
19世紀後半からの英国の没落時に出現した刹那的で快楽的な社会状況と同じです(ローマ帝国衰退、ファシズム勃興にも通じる)。

こうして人々は選挙に行かず、政府が従来の政策を継続することに安心した。
毎回、見栄えのする政策に希望を繋ぐが、徐々に悪化するだけでした。
こうして国政は既存の政治屋に握られることになった(日本が酷い)。
結局、政治への信頼喪失が、益々、政治を劣化させている。


これらの結果、既得権益擁護のマスコミの扇情が、分裂社会と国際間の緊張の中で一部のタカ派を奮い立たせることになった(マスコミの敗北について、注釈1)。
こうして保守派とタカ派が強く結びつき、低い投票率にあって国家の帰趨を決するようになった。
この結びつきは日米トップの支援層に著しい人権無視や強権的な言動によく表れている。

しかし日本の問題はこれだけで済まない。
日本ではマスコミが偏向し報道の自由が簡単に無くなる文化と歴史があり、現在、世界が評価する日本の報道自由度は低下する一方です(日本のマスコミについて注釈2)。
戦後、教育の場で政治論議がタブー視され、歴史教育もないがしろにされたのが今、災いしている(北欧は盛ん)。
また米国の占領下にあって経営者側と労働者側の対話形成が阻害され、敵対的になり、さらに1980年代以降、政府により労働組合が弱体化した。
一党による長期政権が続いたことにより政権中枢へのタカリや癒着(パトロネージ)が深刻化した。


次回、この世紀末状況から抜け出す道を探ります。



注釈1
米国の主要マスコミはベトナム戦争当時、政府に果敢に挑戦した。
ホワイトハウスの圧力に屈せず、ベトナム戦争の真実を暴こうとした。
またウオーターゲート事件(1972年)でもマスコミは共和・民主系に関わらず大統領を糾弾した。

しかし、規制緩和が進んだ今の米国はそうではない。
その背景の一端を下記グラフが示している。


< 4. 超保守メディアの台頭 >

オレンジの棒グラフがFOXニュースの視聴者数で赤線が共和党員のメディアの信頼度を示す。
FOXが2001年の同時多発テロ事件で一気に視聴者を伸ばしている。
不思議な事に、FOXは保守的な報道(娯楽と扇情)でシェアを拡大しているが、共和党員の信頼を失いつつある。
それでも全米断トツ一位のシェアによって世論への影響は大きい。

トランプ大統領のロシアゲート疑惑を追及するマスコミ(CNN)に対して、FOXニュースは徹底的に擁護している。
このFOXは、共和党系でメディア王のマードックが所有しており、アメリカ同時多発テロ事件において愛国心を煽り、視聴者数首位の座を占めることになった。
これは米国で1980年代に始まった規制緩和、特にマスコミの自由化(1987年、放送の公平原則の撤廃など)が大きい。


注釈2
第二次世界大戦時、ドイツと日本では戦時情報を軍部が完全に握り、捏造と扇情が繰り返された。
日本は島国で領域外の真実を知る術は乏しかったので、最も騙され続けた。
一方、連合国は戦時中も報道の自由を一応守り続けた。

グラフからわかる戦争報道。


< 5.満州事変時の各新聞部数の伸び >

日本軍が満州事変を起こして以来、最も部数の増加率が大きいのは読売新聞でした。
(読売新聞の立役者は元警察官僚で、当時、御用新聞と綽名されていた)
朝日や毎日は軍部に批判的であった為、初めこそ部数を減らしたが、やがて方向転換し、部数を伸ばすことになった。
単純化すれば読売は戦争推進の姿勢が幸いし、朝日は大きく方向転換し、毎日は方向転換に躊躇したことで、それぞれ部数が決まった。
この状況を加速したのは国営のラジオ放送(NHK)の開始でした。

軍部もマスコミも愛国心を煽ることは容易であり、愛国心扇情はマスコミの業績向上に直結するのです。







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