Thursday, December 11, 2014

何か変ですよ 34: 困難な選択 2




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前回、円安操作について見ました。

今回はリフレ策を検討します。

リフレ策とは
中央銀行が、デフレ脱却を図ってインフレを維持するために貨幣を多目に供給することです。

インフレとデフレの不可解
世界の経済・金融史を眺めると、ある国が打開策で先鞭をつけ、後続がどっと出て、やがて問題(信用不安、恐慌、悪性インフレなど)が顕著になり、元の手法に立ち返ることが多い。
そのサイクルは20~30年ほどで、現在は過去のスタグフレーション(停滞とインフレ)が収まり、長く続いたデフレからインフレを目指すようになった。

国民が国の経済運営で最低限望むことは、失業の低減と所得維持(可処分)でしょう。
巷では、景気過熱によるインフレが雇用増大を生むと信じられている。
景気が過熱し、雇用が逼迫してインフレが起きることはあっても、インフレが雇用を生むのではない。

かつてのインフレのように、インフレ率が経済成長率よりも上回る場合、実質所得(定期収入なども)は減ります。
最近の日本では、所得は増えないが、デフレで実質の所得は若干増えたはずです。
また定期収入(年金や保険配当など)はインフレ時代と比べ多きく目減りしませんでした。

インフレとデフレの功罪は学者によっても、その恩恵は所得層によっても様々です。

なぜ今、リフレ策なのか?
結論から言うと、カンフル剤としての役割が期待されています。
つまり一時しのぎであり、多用すると副作用が出る可能性があるのです。

かつて中央銀行は、予想される経済成長にふさわしい貨幣を供給することでした。
それは悪性インフレを避け、持続的な経済成長を図るためでした。
しかし既にドイツを除く欧米の多くの国は、貨幣供給量を多めにして、より景気を刺激し、インフレを許容するようになりました。
その背景に、世界経済が低迷し続けていることと、打開策が見つからないことがあります。

景気浮揚策の難しさ
かつて世界は幾多の経済浮揚策を試みましたが、効果はどうだったのでしょうか。
実は、この評価が分かれ対立し不明瞭なのです。
これは利権を代表する学派の対立があるからで、定説がまとまることはないでしょう。

良く聞く景気浮揚策の要点を簡単に見ておきます。
     減税: 多用されますが、効果が低いと累積赤字が増大。
     公共投資(財政出動): 多用されますが、効果が低く多額なのでさらに累積赤字は増大。
     貨幣供給: 現在主流で、上手く制御出来ればコストがかからず効果大とされるが、インフレやバブルを生む。この後、莫大な費用と深刻な景気後退が発生。

すべて変な条件と副作用がついています。
前者二つの効果が低くなる理由は経済(構造)と方法(配分)に問題があるからです。
この改善の方が重要のですが、政府は権益擁護のために触れません。
最後の制御が難しいのは本当ですが、複雑で説明が難しい。
ただ欧米の現状をみれば、一目瞭然です。
貨幣供給量を増やし、欧州はインフレになったが、失業率が減ったでしょうか。
増えた貨幣(貸出)は、結局、バブルを生み、多くの債務者を作り、弱小国家の財政破綻を招いた。
米国はほぼ10年毎の金融危機の谷がより深まり、将来、大恐慌が起きても不思議ではない。

実は、この三つの対策が上手く行かない理由は、消費者や企業家の心理を適確に予想できないことにもあるのです(経済学も扱えない)。

簡単な例では、減税しても消費者が貯金に回すとか、インフレでも企業家が海外の絵画に投機するが、国内の設備投資に回さないような場合です。


それでは景気浮揚策は不可能なのでしょうか?
実は歴史から学ぶべき景気浮揚策はいくらでもあるのです。
A.     共産主義を脱した国: 労働意欲の向上を生んだ。
B. 英国の産業革命: 特許保護で発明者、企業保護(株式会社)で企業家の意欲向上。
C. 20世紀前半の英国と米国: 労働者の権利擁護(賃金と仕事確保)で消費増(需要増)。
D.     かつての帝国: 膨大な軍事費と偏った権益擁護によりじり貧。
E.     万年後進国: 多くは権力者の恣意的な経済運営、権力者層の権益擁護で経済沈滞。

これらから言えることは消費者・労働者や企業家の意欲を生み、見合った成果報酬を得られる経済システムが鍵なのです。
逆に、やる気を削ぐような不公正な経済システムを作らないこと、特に既得権益擁護が多くの社会や経済の硬直化を生みます。

例えば、この度、青色ダイオードの発明でノーベル賞を受賞した中村氏への企業や国の対応が良い例です。
彼の訴えに対して裁判所は発明対価を200億円とし、会社に彼への支払いを命じた。
当然、この企業は微々たる金額しか払ってこなかった。
日本は発明において名目労働者擁護だが、実質は対価のほんの一部しか受けることはなかった。
さらに経済界と政府は、この事態を恐れて、職務発明者への対価支払いを押さえ込む法案を成立させようとしている。
一番の問題は、このような偏った権益擁護の積み重ねが、社会経済の硬直化を生んでいるのです。


    

現在進行中のリフレ策について
既に見たように、景気浮揚策の本質はご理解いただけたと思います。
しかし、そうは言っても、現状では変えられそうにはありません。
そこで進んでいるリフレ策の効果と懸念について要点を見ておきます。

期待できる効果
インフレが期待されると人々は資金を退蔵せず、投機や投資に向かいます。
増税前の駆け込み需要が連続して発生するようなものです。
一端、消費や投資が始まると好循環が起こるとされている。
これで景気が上昇して目標達成になります。
実に単純明快な政策です。

問題の基本
     バブル: 日本の平均株価が倍になったら全株価の評価額は数百兆円増えます。これは国民一人当たり数百万円の資産を増やしたことになり、儲けた人は消費に回します。これで景気がよくなるとしましょう。しかし残念なことに暴落も同様に必ず起きます。すると消費はガタ落ちになり、残念なことに大きな不良債権(無駄使いの後始末)ほど国民の税金で助けることになります。こうならないように世界の中央銀行(日銀)は制御するのですが、如何せん、バブルを無くすことは出来ません。
 
     制御が困難: バブルが発生し崩壊するのは、金融の制御が困難だからです。今回のリーマンショック(世界的な金融危機)の発端は、善意の家持ち対策と言えた(景気浮揚と低所得層擁護)。これがいつの間にか、まつたく信用出来ない債権の乱発を生み、強欲な金融家が天才的な利殖法と喧伝し、世界中から溢れる資金が群がったのです。そしてこのことを当時の金融政策責任者達は順調な景気回復と捉え、赤信号と気づかなかったのです(一部気づいた有能な人はいたが)。これはなぜでしょうか。法の網をかいくぐり巧みな金融手法を生みだす強欲家は数しれず、それに気づき景気後退を避けながら、強欲家(選挙資金提供者)の批難をかわし是正することは不可能です。ここ2百年ほど繰り返しています。

何が困難を生むのでしょうか? 経済成長率、インフレ率、長期金利、為替、設備投資、消費、国債残高、経常黒字、他国の動向、選挙事情などが複雑に絡みます。例えば長期金利がインフレ率を上回ってしまうと、累積赤字は益々膨れあがります。

     貨幣供給(信用・貸出増)の問題: 米国初のリーマンショックの折、日本の被害は少なかったが、欧州は酷かった。これは金融政策の差で、重要なのは日銀が無謀な資金供給に慎重だったからです。簡単にいうと、頭上に直径の大きなタライを置き、水を満タンにして歩くのと、少なめにするのとの違いです。水はたくさん欲しいが、筋力が落ちれば、一回の運搬量を少なくするしか無いのです。

     様々な懸念: バブルを防止するには金融システムの適正化が必要ですが、米国筆頭にこれが進みません。いつも他国から声が上がりますが、立ち切れになります。理由は明らかです。また世界のグローバルシステムは米国基準になっているので、どうしても税制、管理基準(罰則)、保護基準を米国に合わせざるを得ません。これが日本独自の政策を困難にしています。


最後に
結論は、非常に難しいことをやろうとしていることです。
取っ掛かりは、超簡単で出費もいらず、夢のような政策です。
しかし一端やり始めると止められず、欧米のようにバブル、カンフル剤注入を繰り返すことになるのです。

大事なことはインフレ期待で景気を刺激し、即、経済構造の改革に着手することです。
そして制御困難なインフレ誘導策を手控え、構造改革後の自力脱出が理想です。
このことを今の政府に託すことが出来るなら、続行を信認すべきです。

残念なことに、野党も含め、世界も実現可能な理想の対案を提示出来ないでしょう。
ひとりスタンスを固持しているのはドイツぐらいでしょうか。

私達凡人には金融・経済政策を理解できませんが、並の天才程度では制御が困難なようです。
少なくとも経済を神頼みするのは危険です。
自ら疑い、理解し、監視する事だけは必要です。

次回は、累積赤字について見ます。




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