Thursday, January 29, 2015

社会と情報 39: 新聞は誰の味方か 3






< 1. 西山事件を扱ったドラマ、山崎豊子原作  >

前回に続いて、主要新聞の事件報道を追います。
記者が見た新聞業界の内実は今回で一端終了します。


以下の四つの事件報道から見えるもの
はじめに、三つの事件で検察の横暴と暴力、マスコミが加担する例を見ます。
最後に、地方で起きた一事件を巡る加熱報道がもたらす悲劇を見ます。
今回は様々な資料を使いました。
大手新聞二社については仮称ABで扱い、後に種明しします。



<  2.  飯塚事件を扱った映画 >

     「飯塚事件」
1963年、会計事務所の4人の職員が脱税教唆の容疑で逮捕され、7年後に無罪。
この無罪獲得までの闘いが小説「不撓不屈」になり映画化もされた。

問題は、検察と国税庁が一緒になって、この会計事務所の顧客先に顧問契約の打ち切り、はては脱税証言をすれば税務調査に手心を加える等の卑劣な手段を使い立件を図ったことです。
結果は、会計事務所所長の粘り勝ちで、国会議員が国税庁の横暴を追及し、手打ちとなった。

     「西山事件」
1972年、日米間の沖縄返還協定をめぐる密約を毎日の西山記者がスクープした。
しかし彼は首相が米国と裏取引した密約を暴露したことにより、執行猶予1年の有罪判決を受けた。

判決では報道機関が適正な手段を使うならばこの秘密文書の告発は問題ないとし、彼の卑劣な行為だけを問題にした。
その判決主旨は、密約情報を持ち出した外務省の女性事務官を彼がたぶらかし、彼女の人格を傷つけたことだとしている。

検察は政府上層部(首相?)の意向を受け、「不倫関係による卑怯な入手」を前面に出し彼を追いつめた。
裁判では密約の有無に触れず、マスコミを通じて、彼は破廉恥な記者として社会に印象づけられた。
おかげで、首相と政府は密約の追及をはぐらかすことが出来た(密約はあった)。

この手の個人攻撃に対して、個人が独りで大組織に立ち向かうのはほぼ不可能です。
米国でも似たことは起きるが、マスコミが国や大企業の脅し(裁判)に抗して告発者を保護し、報道することになる。

もう一つの問題は、毎日がこのスクープを大きく扱わず、焦って西山記者が議員に依頼し国会で追及した。
しかし、それが仇となり告発者が特定されてしまったことです。
新聞社が告発していれば匿名が可能だったはず。


    

*「村上ファンド事件」 (著書「官報複合体」を参考)
2006年、村上ファンドがニッポン放送株でインサイダー取引したとして逮捕され有罪確定。

彼は逮捕される数時間前、日頃、取材で顔見知りになっていた著者に電話を掛けて来た。

村上:「きょう、生まれて初めて公の場でウソをつきます」
著者:「えっ? どういうことですか?」
村上:「罪を認めるということです。・・記者会見をしますので、ぜひ来て下さい」
著者:「インサイダー取引をやったのですか?」
村上:「新聞を見たでしょう? 罪を認めなければ、僕のほかにも幹部が逮捕をされてしまう。・・本当のところをわかってくださいね」

検察から流された「徹底した逮捕起訴は確実」の情報が躍る新聞を見て、彼は仲間と会社を守ろうとした。

ポイント: この三つの事例から、検察の横暴と恐ろしさ、個人の抵抗が如何に困難か、それに加えてマスコミが如何に無力で、むしろ同調し弱者を追い込んでいるかがわかる。


    

     「津山主婦行方不明事件」の報道 (私が直に聞いた話)
2002年、岡山で医師(高橋幸夫)の妻が行方不明となり、口座から大金が引き出され、いまだ犯人と妻が見つからない未解決事件です。

2013年、私は講演会でこの医師(「全国犯罪被害者の会」幹事)の悲痛な訴えを聞いた。
彼は、当時の過剰で被害者を踏みにじるマスコミ取材に怒りを露わにし、11年経っても治まらないトラウマに苦しんでいた。

事件当時、彼は度重なる取材の自粛を県警通じて「記者クラブ」に訴えた。
A社を幹事会社とする県警記者クラブは、直ぐに反応して以下の申し合わせを行った。

「妻の妙子さんが行方不明という状況の中、幸夫さんの肉体的・精神的疲労もピークに達していて、度重なる取材に対し、『これ以上の取材はやめてほしい』と悲痛な声を上げているということです。
・・・
以下の事を申し合わせました。
1. ・・・
2.本人以外への取材に関しても、良識を持って取材活動を行う。
3.幸夫さんに対して、会見を開いてもらえるよう、クラブとして交渉を行い、出来る限り早期の実現に向けて努力する。
・・・
『本人への過熱取材の背景には、県警からの情報の過小さがある』という認識もあり、県警に対して、・・情報の提供を強く要望する・・・ 」

しかし、この申し入れの11日後、容疑者に近い人物が自殺し、これにより手掛かりは断たれた。
以前から警察はこの人物の身辺捜査を行っていたのだが、A社が自殺の前日に、この人物を2回電話取材していた。
この取材が原因で未解決事件になったとまでは断定できないが、被害者の医師は、当時の過熱取材と報道が事件解決の道を閉ざしたと訴えた。

ポイント: 新聞は、往々にして事件解決や人権を無視してまでも執拗な取材と報道を行い、犯罪を扇情的に扱う傾向がある。
それが視聴者の耳目を集め、新聞の発行部数増につながると信じるからです。
新聞社によって犯罪を扇情的に扱う度合いは異なる。
また犯罪の主体が、国家や企業等による組織的ものか、また与党側か野党側か、はたまた周辺で起きる利己的なものかでも、新聞社によって対応は異なる。


最後に
3回の連載で取り上げた8件の事例を見ると、日本の主要新聞が如何に本来の姿から逸脱しているかがわかります。
つまり権力(「記者クラブ」を有する大組織)との繋がりを優先するあまり、本来、第四の権力となって国民の為に監視すべき立場を放棄しています。
結局、このことが弱者や人権を無視することに繋がっています。

このことは新聞社によって多少異なっていました。
また新聞社の官僚体質とは異なる次元で起きていることもわかりました。
この違いを生む原因については別に取り上げます。

私が残念に思うのは、「記者クラブ」等の官公庁と新聞社の癒着構造が、常々、世界や良識ある記者達に批判されているにも関わらず、平然と続けられていることです。


次回から、新聞と検察が、どのように泥沼にはまっていったかを見ます。

種明し、A社は読売です。




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