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Tuesday, October 6, 2026

連載 国民の責任 1; 悪化の責任は誰に

 


 

国が戦争を始めた時、「国民に責任はあるのか」、日本と米国について考えます。

 

 

国民の責任とは何か

私は、米国の現状を見ていて「国民の責任」を痛感するようになった。

もしトランプが独裁を完成させ、米国のみならず世界をも悲惨な状況に陥れたとしたら、誰の責任なのか?

現状のトランプはまだ未完ですが、放置すれば確実に独裁者になるでしょう。

その責任は、彼を担いだ人々にあるのは確かだが、「彼を選んだ国民にも責任はある」と考える。

 

 

それはなぜか

もしトランプの戦争がやがて大規模になり、国内外に甚大な被害や死者をもたらすようになれば、誰が責任を負うのか?

米国は、大戦後、数々の戦争を行って来たが、さらに大規模で無謀な戦争を始める可能性は、独裁者登場でより高まる。

トランプを煽情家・詐欺師に例えると、騙された米国民は被害者であって責任は無いと思うかもしれない。

この場合でも「過失により他人に損害を与えた責任」は米国民にあるだろう。

トランプに票を投じた人がより責任を追うべきだが、これを放置した人にも幾分の責任がある。

 

 

微妙な問題

ナチス・ヒトラーを生んだドイツ国民や日中戦争を始めた日本国民に責任はあったのか?

当時のドイツは民主主義国家であり、ナチスは選挙で選ばれていたが、独裁の完成はヒトラーの陰謀無くしては不可能だった(国会放火事件と非常事態宣言による共産党排除)。

少なくとも、当時、ナチスに票を入れた約3割の国民には過失があったように思える。

 

満州事変を始めた当時の日本の国会は、選挙で選ばれた二大政党によって運営されていた。

しかし、政治は戦争を望む軍部に牛耳られており、民意が反映される状況にはなかった。

国民が軍部の暴走を押しとどめることは極めて困難でした(治安維持法、年国家総動員法)。

これからすると、当時の国民に過失責任を問うことには無理があるかもしれない。

 

しかし、その後、両国民は対外侵攻に期待もし熱狂もした。

 

 

今の米国はどうだろうか?

米国民は、益々生活が暮らし難くなる中にあって、「悪化させている奴らを簡単に排除してやる」と言われ、その煽情者(トランプ)に解決を託してしまった。

これを可能にしたのが、長年続いていた既得権益層によるポストトゥルース、オルタネイティブ・ファクト(代替的事実)等の真実隠しでした。

真の悪化要因は半世紀に及ぶ政治にあり、連載「迫る多難な危機」の第四章で説明しました。

ここ10年ほどは、インターネット上の煽りやフェイクが加わった。

さらに悪いことに、宗教的信念が利用されて約1/4の米国民が煽情者を頑なに信じてしまった。

それでも煽情者の嘘と恐ろしさに気づいている人々は半数近くいる。

 

この状況を見るなら、宗教的な人々も含め、騙され煽情されている国民の約半数には責任があるように思えるが、疑問も残る。

 

騙され煽情されて誤って選択した人々に責任はあるのだろうか?

彼らは詐欺師に騙されたのと同様ではないか?

これを言うなら、ヒトラーの煽情に乗せられナチスに投票したドイツ国民も、言論統制下で軍部独裁に抵抗出来なかった日本国民も同じです。

 

それでは、「堕胎禁止、同性婚反対、イエス復活に繋がるパレスチナ攻撃」等の宗教的信念実現との交換条件で独裁を許容する人々の責任はどうなるのか。

この人々は、実現を可能にした独裁的な手法を賞賛しているが、独裁の本当の恐ろしさを知らない。

ヒトラーも総裁選を前にして、議席確保のため、教会を保護する約束と引き換えにドイツ中央党(カトリック系政党)を味方に引き入れた。

このような手口で宗教団体を政治に利用した政治家こそ責められるべきではないのか?

 

国が間違った方向に進む時、国民は微力かもしれないが、重要な選択を迫られ続けるものです。

この問題を紐解いていきます。

 

 

---目次---

 

1話;悪化の責任は誰に

2話;皇軍が選んだ道

3話;独裁に魅了された人々

4話;皇軍の軍人魂とは

5話;日本の戦争を振り返る

6話;軍備と敵について

7話;戦争に向き合う

8話;米国民へのお願い

 

 

次回に続きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Thursday, October 1, 2026

短縮版 迫る多難な危機  第四章 4-2 後半2部

 


「一時の自己満足の為に人類を破滅させては、神も悲しむだろう」

 

この短縮版は、既に投稿済みの「迫る多難な危機」を、少し内容を割愛、分割して連載します。

 

まえがき

 現在、深刻な危機が同時多発的に地球と人類に迫っています。特に、この20年あまり、一部の大国が身勝手に振舞って来たことでより加速しています。今、私達が立ち上がらないと、子孫に顔向け出来なくなる。家族と世界を再び幸福にしましょう。

Make the world and people happy again!

 

 

--- 目次  ---

第4章 緊急に対処しなければならない危機:米国の独裁化

 4-2 なぜこのようなことが起きてしまったのか

   真実はどうして葬られたのか 1

    真実はどうして葬られたのか 2

    すがり続けた夢の果てに

    基本的な考え方

 

 

 


第4章 緊急に対処しなければならない危機:米国の独裁化

 

 既に見たように、今、世界は危機的な状況に突入しつつある。中でも、米国の独裁化が最も危険で、目前に迫っている。米国で右翼ポピュリズムが、なぜここまで力を得てしまったのか、その背景を見ます。そこには日米欧等先進国に通じる、新自由主義政策の欠陥が深く根付いています。さらに米国特有の病理(特徴的な宗教)が災いしています。

 

 米国が独裁化を回避し本来の民主主義に戻ることが、米国民を迷いと苦難から解放することになり、また世界が一致協力して、世界の危機に対処できるようになる。

 

 

 

 真実はどうして葬られたのか 1

 

 いくら信仰心が高まっても、現代は科学の知見があまねく社会を照らしている。数千年前に遡る聖書の予言や格言に先進大国が振り回されるとは思いもよらなかった。実は、宗教のみが真実を覆い隠す役割を果たしたのでは無い。もう一つ深い闇が社会を覆いつくしているのです。

 

 


  分かり易い例があります。2017年、トランプ政権のスパイサー大統領報道官は、トランプ氏の就任式に集まった群衆の規模について「過去最大の人々が就任式に参加した」と主張した。しかし、メディアによる空撮写真や公共交通機関の利用データなどからは、前回のオバマ大統領の就任式時よりも少ないと指摘された。これについて、コンウェイ大統領顧問がテレビ番組に出演した際、「スパイサー報道官が示したのは嘘ではなく“代替的な事実(alternative facts)”である」と述べ、正当化していました。トランプの発言は虚言の方が多いのですが、虚実取り交ぜ、応援者には夢を与え続けて、批判に対しては報道機関と国民を煙に巻いてきました。実は、この煙に巻く事で、永らく米国民は真実と科学的知見から遠ざけられて来たのです。

 


 

 1950年代、喫煙と肺がんの因果関係が指摘され始めると、大手タバコ会社は共同で「タバコ産業調査委員会」などの偽装団体を創設しました。これは中立的な研究機関を装いながら、実際には業界に都合の良い偽物の専門家を雇い、科学的論争が未解決であるかのようなプロパガンダを流し続けたのです。さらに、あえてタバコと直接関係のない、癌の発生プロセスなどの広範な生化学研究に巨額の資金を提供し、因果関係の結論決定を遅らせる時間稼ぎを行いました。タバコ会社自身は、すでに「ニコチンには強い依存性があり、タバコは癌を引き起こす」という真実を突き止めていました。1980年代に受動喫煙の害が証明され始めると、タバコ会社は「お抱えの科学者」に資金を出し、「科学的な証拠が不十分である」とする論文を発表させました。この間も、真実のデータはすべて極秘とされ、1990年代の米連邦議会の公聴会でも、タバコ会社の最高経営責任者たちは「ニコチンに依存性はない」と宣誓供述をして嘘をつき続けました。しかし、あるタバコ会社の開発担当副社長は内部告発により解雇され、さらに会社とギャングから激しく攻撃された。しかし彼の証言などにより1998年、大規模な損害賠償請求訴訟において歴史的な和解(勝訴)が成立した。

 

 実は、この「確実な証拠がない」「議論はまだ続いている」という「疑念の製造」戦略は、今も形を変え蔓延し続けているのです。最も危険なのは、天然ガス・石油掘削会社と共和党による地球温暖化隠しです。他にも、保守系シンクタンクが様々な、「疑念の製造」戦略に加担しています。このような目くらましが、半世紀以上、巨額の資金をつぎ込んで垂れ流されているのですから、大半の国民は真実を見ることが出来なくなっている。一人一人が科学的論拠を確認するのは困難です。

 

 

 

真実はどうして葬られたのか 2

 残念ながら、21世紀、特に2010年以降は、さらに困難な状況に追い込まれている。単純だがトランプの前回の4年間で3万回を越える虚言は、史上圧倒的な量です。彼は1日に10~20回、虚言や紛らわしい言説を吐いている。選挙集会等で、自陣営の聴衆を喜ばすために、また報道機関から批判的な質問を受けると、彼はほとんど虚言か誇大な言説を連呼する。報道機関等のファクトチェックに膨大な手間と時間が掛かり、究明に追いつかない。さらに巧妙なのは、大手マスコミを毎回、フェイクニュースと罵り、トランプを絶賛するFOXや一部のインターネットニュースサイトのみが真実を報道していると付け加える。今も、トランプ氏支持者は頑強に彼を信じて疑わない。しかし、これはほんの序の口です。

 

 既に、インターネット上で嘘がこだまのように反響している事は周知の事実です。この状況を差す言葉、ポスト・トゥルース(Post-truth)が2016年に有名になりました。これは世論形成において客観的な事実よりも、感情的な訴えや個人の意見のほうが強い影響力を発揮する状況を指しています。イギリスのEU離脱(ブレグジット)やアメリカ大統領選でのトランプ勝利など、世界政治がデマで大きく動いた事例でした。このような状況が生まれた背景の一つに、SNSの普及によって、誰でも簡単に世の中に対して個人的な意見を表明することが可能となったと同時に、多くの情報を瞬時に流通・拡散できるようになったことが挙げられる。利用者が見たい情報だけを見る「エコーチェンバー」や「情報のサイロ化」(広く連携できない孤立化)が進んだことが大きい。SNSの普及は、個人的な考えの影響力を増殖させた一方で、フェイクニュースと呼ばれる事実と異なる情報が短時間で世界中に流布されてしまう状況も招いた。その結果、テレビやラジオ、新聞、雑誌といったオールドメディアの影響力は相対的に低下し、客観的事実が軽視されるようになった。このエコーチェンバーは、人間の心理(自分にとって心地良い情報を選択)とSNSや検索エンジンのアルゴリズムが、個々の利用者の興味(情報)を分析し、望みを叶えるように優先表示している事で、加速している。利用者はさらにこれが繰り返され、より狭い範囲の情報に閉じこもるようになる。この状況を巨大プラットホーム(Google、メタ等)が莫大な広告料欲しさに、コントロールし、トランプの1期の選挙から、選挙に有利になるように細工した可能性がある。当然、大統領就任後、リベラルが望むSNSの規制を反故にするのと引き換えを目指してのことのようです。この選挙時に、ロシア(プーチン)がトランプを勝たせるために、ヒラリー候補にダメージを与える為に、SNSで攻撃していたことが、ほぼ確実視されている。

 

 深刻度が増すポスト・トゥルース時代と混迷を深める経済・社会にあって、我々はどう対処すべきなのか? 

 

 

 すがり続けた夢の果てに

 米国民の多くがこの夢に幻惑され続け、さらに何割かの人が神の下に在り続けるなら、地上では諦めても良いと思っているかもしれない。その夢とは、新自由主義の単純すぎる例、トリクルダウンです。これは、シャンパングラスを積み上げ、最上段にシャンパンを注ぎ、やがて最下段にまで滴り落ちる例えで示されます。富裕層や大企業が豊かになることで、最終的に貧困層など社会全体にも富が浸透・波及するという考え方です。半世紀待っても、最上位のグラスが大きくなるだけで、下には零れませんでした。

 もっとも罪な経済イデオロギー「完全な自由市場こそが消費者に最大の利益をもたらす」は、自由主義の小さな政府と自己責任論と並ぶ三大テーマの一つです。このテーマの前者二つとマネタリズム(金融数量説)は、当時絶大な信頼を得ていたノーベル経済学者ミルトン・フリードマンが提唱したものです。半世紀も経た今となれば、どれも齟齬をきたしている。むしろ米国の災厄は、これら理論の呪縛から抜け出せないことにある。この市場原理(自由市場)については、共和党も民主党も共に推進し、他の小さな政府、自己責任論、マネタリズムについては、民主党は抑制気味でした。

 政府が規制をなくして市場を完全に自由にすれば、無数の企業が競い合って効率化が進み、価格が下がり、消費者が最大の利益を得ると考えたのですが、理想どうりにはならなかった。規制緩和が進んだ結果、予測とは逆に「勝者総取り(ウィンナー・テイク・オール)」の現象が起きました。規模の経済やネットワーク効果(IT大手プラットフォーマーなど)により、市場は競争が激化するどころか、少数の巨大企業による寡占・独占が進みました。その結果、価格支配力が強まり、中小企業の排除や、富の極端な集中(格差の拡大)という弊害が生まれた。

 

 当時、フリードマンが最も信頼されたのは、彼の金融数量説の採用によって、当時のインフレを抑制出来たことにあり、画期的でした。金融数量説の信奉から金融技術の進展が起こり、自由競争が重視された事と重なり、投機が巨大になり、実体経済と金融経済が乖離しました。そして巨額の利益は金融から生まれるようになり、投機が行き過ぎると、景気は加熱するが、やがて金融危機が繰り返すようになった。もう一つの問題は、多くの国で資金が投機に向き、本来の設備投資に向かなくなったことも長期的経済成長を抑えることになった。

 

 現在、多くの経済学者によって、現状の新自由主義による経済運営は、様々な問題を生み出しているとし、個々の政策について批判され、修正が求めらている。もつとも保守系、富裕層、大企業はこれに反対していますが。

 

 

 基本的な考え方

 

 現状の経済状況を観察すると、異常であることは疑いない。明らかな事は、貧乏人はより貧乏に、金持はより金持ちに、しかも固定化されて来ている。また社会保障等が先進国中遅れたままです。当然、これは人為的な政策による結果です。なぜなら1980年代以降、多くの経済・社会指標が急激に悪化して来たのですから。

 行き過ぎ積み重ねらた政策が問題でした。大幅な規制緩和による自由競争、徹底した自己責任への転嫁、富裕層や企業に偏った大幅な減税など大きい。これらの弊害については、個々に簡単に触れて来ました。ここでは要約と、考え方を提示します。

 

 先ず規制が必要です。私たちは長年に渡り、規制緩和こそが、良策と洗脳されて来ました。しかし、これは間違いです。一言で言えば、規制過ぎてもだめだが、規制が無いのも問題なのです。適切な自由競争を生むには、寡占を防ぐ規制が必要です。スポーツで言えば体重別の競技だからこそ良い場合があるように。自己責任を自覚してもらうことは勤労精神を育む上で需要ですが、個人の状況(健康、生まれた家庭、人種、失業)や不意の事故等で、その後のチャンスが閉ざされる事は、社会にとってマイナスです。この理解は難しい。特に共和党支持者は、これら逆境にある人々に、税金が盗まれていると思わされて来た経緯があります。富裕層の減税総額と逆境を支える福祉費の比較をしてみましょう。概算ですが、富裕層の課税を大戦前の税率に戻すと、年間数十兆円が国庫に入ります。さらにキャピタルゲインの優遇措置で富裕層は年間何十兆円も逃れています。もっとも米国は規制が緩いのでタックスヘイブンに多くは逃げてしまうでしょうが。民主党がよく行う雇用対策費用は年間20~30兆円でしょうか。つまり富裕層に税金を負担していただくと財政赤字を増やさず、まともな福祉政策が戻ってくるのです。

 

 重要な事は、政府の政策実施にあたって、適正なフィードバックが可能にしておく事です。現在は、明らかに間違っている政策であっても、変更、元に戻すことが出来ない。それは、富裕層と大企業が、豊富な資金力を使って、選挙などで優位に立ち、長年に渡り政府と国民を手懐けて来たからです。共和党は1980年代から急激に企業・富裕層優遇に舵を切り、民主党とは袂を分かっています。その政策は、法人税・所得税・配当税・相続税等の減税、規制緩和、労組への規制強化、企業補助等で、拡大の一方です。例えば、2025年の共和党の大型減税法案は、「年収100万ドル超の上位0.6%の1百万人が、年収10万ドル未満の1300百万人よりも大きな減税を受ける」とCenter on Budget and Policy Priorities(予算・政策優先事項センター)が分析しています。これが今の米国であり、トランプの実績なのです。

 

 どうか真実から目を逸らさないようにしてください。

 

----全体の目次----

第一章、世界に迫っている危機の要約。

第二章、人類はこれまでに危機に対してどう対処して来たか。 

第三章、我々が直面している重大危機。

第四章、米国の衰退と世界の危機回避能力喪失は一体。

第五章、如何にあるべきか。

第六章、成功している北欧は資本主義のもう一つ道。

 

Monday, September 28, 2026

短縮版 迫る多難な危機  第三章 3-8,3-9

 


「一時の自己満足の為に人類を破滅させては、神も悲しむだろう」

 

この短縮版は、既に投稿済みの「迫る多難な危機」を、少し内容を割愛、分割して連載します。

 

まえがき

 現在、深刻な危機が同時多発的に地球と人類に迫っています。特に、この20年あまり、一部の大国が身勝手に振舞って来たことでより加速しています。今、私達が立ち上がらないと、子孫に顔向け出来なくなる。家族と世界を再び幸福にしましょう。Make the world and people happy again!

 

--- 目次  ---

第3章 我々が直面している危機

 3-8 分断と対立の深みに喘ぐ世界  

       まとめ

  3-9 世界は協力しなくなった  

       何が世界で起きているのか?

 

     

 

 

第3章 我々が直面している危機

 

 我々に幾多の大きな危機が迫りつつある。それらには歴史上繰り返され来た危機や、まったく未知の恐ろしさ秘める危機もある。これらの危機を見極め対処しなければ、一国の疲弊や破綻に留まらず、遂には人類と地球に大きな損害を与えることになるだろう。数多くの危機の中から、最重要なものを選んだ。

 

 

3-8 分断と対立の深みに喘ぐ世界

 

 現在、先進国で概ね共通して宗教・移民・人種・LGBTQ を巡る対立が深まっている。かつて「多様性の尊重」や「寛容」を掲げた融和の精神が先進国に満ちた時代があった。しかし現在は異なる集団を差別し敵視する社会的分断から、さらに排除へと先鋭化しつつある。何が人々をこうも駆り立てたのだろうか。この半世紀の先進国の分断の経緯を簡単に追います。

 

1960〜1970年代、多文化主義と移民: 欧米諸国(カナダ、オーストラリア、欧州の一部)が移民労働者の定住化を受け入れ、多文化主義や寛容を公的な価値観として掲げ、異なる文化や宗教の共存を目指した。この時代、旧来からの差別は残存していたが20世紀初頭の労働運動・民主主義運動の息吹が息づいており、米国では公民権運動、女性解放運動、学生運動、同性愛者解放運動が次々に登場した。欧州でも福祉国家の拡充と社会解放が進んだ。一方で、移民の増加と、米国への移民が白人から有色人種(ラテン、アジア)へと変化し増えた。

 

1970〜1990年代、保守革命が始まる:それまでのリベラル化(市民権運動、女性解放、性の解放、宗教的寛容の拡大)と、白人以外の市民が増えることで保守派は価値観の喪失を恐れるようになり、政治的にリベラルに対決姿勢を取るようになる。特に米国では1970年代後半から、福音派などの保守的キリスト教勢力が多文化主義を否定する政治運動を強めました。米国では、宗教上の道徳観を国家のアイデンティティにするまでなった。共和党が保守的キリスト教勢力を取り込むことで保守革命は強大な力を得ることが出来た。また冷戦終結前後で、欧米は移民の受け入れを増加させた。

 

1980~2000年代、経済格差が深刻化: 1980年代に保守改革の一環として始まった新自由主義政策は、市場の自由と小さな政府を標榜し、リベラルの人権や権利を優先する福祉政策を否定していった。またグローバル化が進んだので産業の空洞化が進行した。空洞化に対応する労働者転職や産業転換をないがしろにした事と、金融経済の発展が、福祉政策低下と相まって、格差拡大を進行させた。リーマン・ショックなどの世界金融危機が頻発する度に格差は拡大し、経済・金融・福祉政策に問題であるにも関わらず、格差の不満は移民や政治エリート、グローバリズムに向けられるようになっていった。理由は簡単で「外国人が仕事を奪った」が最も納得し易いからです。こうして文化戦争や経済的な不満は、分かり易い敵を生み続け、リベラルに対立する右派ポピュリズムの台頭に向かうことになる。また9.11同時多発テロが起こり、イスラムへの警戒感が高まり、さらに宗教的・文化的な対立が先鋭化した。

 

2010年以降、欧州難民危機とポピュリズムの台頭: シリア内戦等に伴い大量の難民・移民が欧州に流入し、社会統合の限界や治安への懸念から排外主義的な政治勢力が急伸した。



 まとめ

 

 この分断と対立に繋がる社会変化をもたらした背景とは何か? 端的に言えば、20世紀初頭の労働者優位等にみられる民主主義の大躍進が、保守層に反感を抱かせた事から始まった。保守層(伝統重視の人々と富裕層)にとって、この大躍進が社会の後退に思えた。一つは、権利の平等を広げる事は、従来の男尊女卑や家父長制を温存する伝統を否定する事に繋がった。今一つは、富の再分配は富裕層の富の減少を確実にしたことだった。保守層は、伝統を破壊してはならない根拠として聖書(宗教的権威)を担ぎ出した。また、富の再分配は、労働意欲を減退させるので、より自由が不可欠だと復古思想を持ち出した。そして、国の保守的なエスタブリッシュメント達は、経済と社会政策の大転換のキャンペーンを行い、実行に移した。当然ながら格差拡大は広がった。こうなると、中間層以下の人々にとって所得が伸びないゼロサム社会では、他者に与える施し(再分配)を与える余裕はなくなったと考える人が増えた。こうした中、中間層以下の人々の窮地は、グローバル化と移民、リベラルな福祉政策(税の徴収)が原因だと煽られるようになった。こうして、他者を憎み、排斥することで解決出来ると考える人々が増えた。この精神状態、社会状況、懐古・復古主義に陥る宗教、それを利用する政治家は、歴史上繰り返され、ファシズムや独裁に繋がって国を滅ぼすことになることが多い。

 

 ところが、より社会を不安定にしポピュリズムに向かわせているものが二つ生まれた。一つはSNSです。アルゴリズムの基本設計において、エンゲージメント最大化(いいねを重視)が2010年代中頃から始まり、さらに怒りの感情を優先するようになったことで、利用者は知らず知らずの内に煽情され、フェイクニュースに飛びつくようになってしまった。もう一つは、ロシアのプーチンが、2014年のクリミア併合以降、欧米の右翼ポピュリズム政党を裏で支援を始めた事も大きい。彼は強力な諜報網を使い、金銭的支援からSNSによる米国大統領選挙への介入まで行っている。彼の意図は世界に自分に連なる独裁者を増やし、ロシアと自身の存続を確実にすることだろう。

 

 

 

 

3-9 世界は協力しなくなった

 

 大戦後、世界はグローバル化を背景に、協力体制を整えて来た時期もあったが、今やエゴむき出しになり、多数による協力は期待出来なくなった。幾つかの協力に失敗した例を見ます。

 

*イスラエル入植地に関する安保理決議案(1972年以来)

 イスラエルの入植地問題を巡る安保理の決議案は、米国の50回以上の拒否権行使や主要国間の対立で採択を逃すことがあり、国際社会の統一的立場が示せない場面が繰り返された。

*国連海洋法条約(UNCLOS / 1982年採択)

 「海の憲法」として採択されましたが、深海底の鉱物資源開発に関する規制を巡り、米国が自国産業への制約を嫌って現在に至るまで批准していません。

*生物多様性条約(CBD / 1992年採択)

 欧州主導で環境・生態系保護の枠組みが作られましたが、米国はバイオテクノロジー企業の知的財産権が侵害される懸念などから署名のみで未批准であり、国連加盟国で唯一の未締約国です。

*包括的核実験禁止条約(CTBT / 1996年採択)

 国連総会で採択されたものの、米国上院の反対で批准せず、中国も未批准です。さらに2023年にはロシアが批准を撤回し、核軍縮体制の亀裂が決定的になりました。

*国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程(1998年採択)

 戦争犯罪などを裁く常設裁判所の設立に対し、欧州諸国は推進しましたが、米国は自国軍兵士が政治的な動機で訴追されることを恐れて署名を撤回。ロシアや中国も参加を拒否しています。

*クラスター弾に関する条約(オスロ条約 / 2008年採択)

 欧州のNGOや政府が主導して非人道的な兵器の禁止をまとめましたが、米国、ロシア、中国という主要軍事大国がこぞって参加を拒否し、現在も加盟していません。

*デジタル課税(デジタルサービス税)(2010年代後半〜)

 巨大IT企業(GAFAなど)から適切に税を徴収するため欧州各国が独自の課税を進めたのに対し、米国は「自国企業への狙い撃ちだ」と猛反発し報復関税をちらつかせました。OECDを通じた世界統一ルールの導入は現在も難航しています。

 

 

何が世界で起きているのか?

  

 世界は、この半世紀ほど徐々に一致協力出来なくなっています。途中、一度だけ冷戦終了後の1990年代、世界は最もまとまる事が出来たのです。

 

 1990年代には、国際環境法、国際経済法、国際刑事法、テロ対策、化学兵器禁止機関、旧ユーゴ・ルワンダ国際刑事裁判所、ICCローマ規程など、非常に多くの国際制度が発展しました。国連は1990年代を「国際法の発展における重要な時代」と評価しています。しかし、その後は、協力体制は崩れて行き、特に、2016年以降2025年と急激に悪化している。2006~2015年の10年間の安保理拒否権は19回でしたが、2016~2025年には49回と2.6倍に増えている。

 

 様々な原因が積み重なり、今に至っているが、大きな原因を挙げます。

*国内の巨大産業のロビー活動が議会を動かし、条約批准を拒否させる。米国。

*多くの国が独裁化を強め、特に大国が自国の地政学的利益を優先する。ロシア、米国、中国。

*最大の理由は、国内の不満が右翼ポピュリズムを招き、内向きになった。トランプ現象。

 

 これまで見て来たように、過去と比べものにならないほど、現在は世界の一致協力なしには解決出来ない重大な危機が、それも数多く迫っている。現状の、各国の内向きな態度を改め、また米国の横暴に耐えるだけではなく、多くの国が協力して米国と対峙し、さらに米国の立ち直りを促すまで行かないと、世界を救うことが出来ない。今は、その時なのです。

 

 

 

----全体の目次----

第一章、世界に迫っている危機の要約。

第二章、人類はこれまでに危機に対してどう対処して来たか。 

第三章、我々が直面している重大危機。

第四章、米国の衰退と世界の危機回避能力喪失は一体。

第五章、如何にあるべきか。

第六章、成功している北欧は資本主義のもう一つ道。