「一時の自己満足の為に人類を破滅させては、神も悲しむだろう」
まえがき
現在、深刻な危機が同時多発的に地球と人類に迫っています。特に、この20年あまり、一部の大国が身勝手に振舞って来たことでより加速しています。今、私達が立ち上がらないと、子孫に顔向け出来なくなる。家族と世界を再び幸福にしましょう。Make the world and people happy again!
第一章では、世界に迫っている危機を簡単に紹介します。
第二章では、人類がこれまでに危機に対してどう対処して来たかを紹介します。
対処出来ない時期の方が長かったが、やっと国が、遂には世界が対処出来るようになって来た。
第三章では、我々が直面している重大危機を説明します
残念ながら、ここ半世紀、特に21世紀になってから、世界は危機を回避する力を無くしつつあり、むしろ危機を加速させている
第四章では、世界が危機回避能力を失った主因である米国の衰退と混乱を採り上げます。
トランプ政権の乱脈ぶりがこのまま続くと、米国だけでなく世界が大きな災厄に見舞われます。
トランプ現象は米国特有の要因もあるが、本質は新自由主義経済の行き過ぎにあります。
この問題を、解決しない限り、他の国、特に日本も遅かれ早かれ、混乱に見舞われる。
第五章では、このレポートの結論です。
独裁の阻止、世界大戦の防止の為に我々は何をすべきかを問います。
第六章では、参考に、北欧の政治社会状況を説明し、資本主義の道が一つで無いことを示します。
--- 目次 ---
第1章 様々な危機
1.戦争と紛争が増えている
2.独裁が増えている
3.経済格差が酷くなっている
4.金融危機は必ず起きる
5.マネーが世界を巡り、逃げている
6.温暖化が暮らしと生命を脅かしている
7.AI産業革命が始まった
8.分断と対立が益々深刻になっている
9.世界が対立し分裂し始めている
10.最重要課題:米国の衰退が限界に達しつつある
第2章 人類は危機にどう対処したのか?
2-1 繰り返される紛争と戦争
紛争や戦争を終結させた事例
紛争や戦争を未然に防ぐ試み
まとめ
2-2 繰り返される独裁
独裁から民主主義を取り戻した例
まとめ
3-3 繰り返される経済格差の拡大と縮小
歴史上、重要な格差是正策
まとめ
2-4 繰り返される金融危機・恐慌
2-5 金融危機を招いた悪辣なマネー
金融危機対応から見える金融経済の問題
まとめ
2-6 繰り返される環境破壊と気候変動
環境を守った事例
まとめ
2-7 幾多のエポックが社会を変え、発展をもたらした
まとめ
2-8 分断と対立を非暴力で乗り越えた社会があった
2-9 国家は対立・分裂し、また融和・統合を繰り返してきた
第3章 我々が直面している危機
3-1 進む独裁 プーチン
プーチンが大統領になった経緯から彼の恐ろしさが見える
順調なロシア経済がプーチンに味方している
3-2 ウクライナ戦争
まとめ
3-3 現在の経済格差、最悪になった米国と大幅に改善された世界
米国を見ます
それでは世界全体はどうなったのか?
まとめ
3-4 これから起きる金融危機に備えて
金融危機のからくり
それでは現在はバブルなのか?
3-5 荒稼ぎし逃げ回るマネー
ここ10年間で荒稼ぎする横暴なマネー
横暴なマネーは逃げ回る
まとめ
3-6 地球温暖化を防止しなければ
温暖化を実感させる5つの事実
温暖化の原因が温室効果ガス排出である5つの証拠
温暖化が進んだ場合の10の重大被害
人類が取るべき対策
まとめ
3-7 ITとAIがもたらす新たな産業革命
簡単な歴史
IT革命が与えた影響
グローバル化とIT革命が労働に与えた影響、米国について
まとめ
AI革命の社会・経済への影響
AIの本質的に恐ろしい側面
まとめ
3-8 分断と対立の深みに喘ぐ世界
まとめ
3-9 世界は協力しなくなった
何が世界で起きているのか?
第4章 緊急に対処しなければならない危機
4-1 米国で起きている悲惨な状況
経済的な状況
社会的な状況
富裕層は一般市民に恩恵をもたらすか
著しい所得格差がもたらしたもの
4-2 なぜこのようなことが起きてしまったのか
経済的な側面
国民はなぜ悲惨な状況を改善できないのか?
目くらまし戦術1
目くらまし戦術2
宗教と道徳について
米国の宗教と共和党の合体
真実はどうして葬られたのか 1
真実はどうして葬られたのか 2
すがり続けた夢の果てに
基本的な考え方
4-3 手強い相手
破綻は不意に必ず訪れる
歴史は繰り返す
テクノリバタリアン(テクノファシズム)
様々な経済理論
第5章 放置すれば最大の危機、どう対峙すべきか
5-1 米国は独裁国家に向かう
5-2 世界は戦争に向かう
5-3 我々は如何にすべきか
第6章 参考
6-1北欧に学ぶ
* 北欧の素晴らしさ
* 労働市場での施策とシステム
第4章 緊急に対処しなければならない危機:米国の独裁化
既に見たように、今、世界は危機的な状況に突入しつつある。中でも、米国の独裁化が最も危険で、目前に迫っている。さらに悪いことに、米国の独裁化(右翼ポピュリズム)が完成してしまうと、世界の危機を防ぐどころから、より暴走させることになる。
ここでは米国で右翼ポピュリズムがなぜここまで力を得てしまったのか、その背景を見ます。そこには日欧米等の先進国に通じる、新自由主義政策の欠陥が深く根付いていることが分かります。米国が独裁化を回避し、本来の民主主義に戻ることが、米国民を迷いと苦難から解放することになります。さらに、これによって世界が一協力して、世界の危機に対処できるようになる。
4-1 米国で起きている悲惨な状況
経済的な状況
一番分かり易いのは経済格差であり、ほんの一部の富裕者が膨大な富を有し、益々、その富は幾何級数的に増えて行く一方で、8割ほどの国民は生活水準が向上しないか貧困化し、不安定な状況に怯えています。さらに非白人や女性は賃金や待遇で差別されています。これは欧米も含めて、今や特別のことでは無くなったが、米国は先進国でトップを走り、格差拡大が止まらない。さらに、この格差が定着し、貧しい家庭からはほぼ裕福な階層に上昇することがなくなってしまった。賃金は上がらないが、様々な生活費(家賃等)は上がり続けており、多くの人々は借金して暮らすようになった。米国の一人当たりGDPは増加しているが、それは一部の高所得が平均値を嵩上げしているからです。貧困率も高い。
社会的な状況
米国の中間層の賃金は、30年間、日本のように低下は無かったが横這いで、雇用状況が悪化し続けている。首切りが容易で、安定した生活を望めない。それに加えて、社会福祉が先進国中かなり貧弱で、医療費が高額、退職金や年金を当てに出来ない人も多い。高額な保険料が払えず、医療保険に加入していないので病気になっても高額な治療費が払えず病院に行け無い人がいる。妊娠した女性は、労働協約によっては育児休暇が取れない場合もあり、退職せざるを得ない。将来の為に、大学に行きたいと思っても、学費は非常に高額で、ローンを借りるか、諦めることになる。簡単に言うと、貧しい人はより貧しく、また何か災い(病気、首切り)に遭うと、どん底から抜け出せなくなる。これで若者は絶望し、薬物に溺れ、自殺も増えるようになった。また経済的な自立が出来ない若者は、親元に残り、結婚することも出来なくなっている。そしてこれらの状況は自己責任で片付けられる。ほんの一握りの人を除いて再起のチャンスや希望を持ちえない社会になっている。
富裕層は一般市民に恩恵をもたらすか
答えはNOです。富裕層の莫大な資金は、不動産、株式、アートなどの資産市場に流れ込み、資産インフレを引き起こします。さらに、富裕層が「いくらでも払える」ため関連の価格水準が上昇します。テレビなどの日用品は安くても、住宅・医療・教育という「人間らしい生活の基盤」のコストが、中間層には手が出ないレベルまで高騰してしまいます。良好な自然環境や景観が、一部の富裕層によって買い占められ、一般市民から切り離される現象が多発します。代表的な例として、カリフォルニア州の「マーティンズ・ビーチ」では、IT長者が海辺の広大な土地を買い取り、一般市民のビーチへのアクセスを物理的に遮断して長年の法廷闘争に発展しました。ワイオミング州のJackson Hole周辺では、富裕層が土地を買占め、土地価格が高騰し、一般住民が住めなくなった。企業が河川を購入し、水利権を自治体に高額で売りつけ、住民の水道代が高くなるなどの被害がある。AIデーターセンター建設と同じ状況です。つまらない格差拡大の例ですが、災いの芽は深く広く浸透しているのです。
著しい所得格差がもたらしたもの
等しく皆が貧しければ絶望を感じないだろうし、さらに上昇のチャンスがあるなら、人は希望を持って生き続けるだろうが、そうではない。さらに悪いことに、一握りの富裕者達が政治と社会を操ることが可能になり、その度合いが日増しに強くなり、露骨にもなっている。貧しい人々がそれに対抗する策は益々少なくなっている。富裕者は莫大な資金を背景に政治献金、ロビー活動で直接、議員や議会を動かし、また草の根、宗教活動に肩入れし、大衆を動かしている。それだけでは無い。研究所を造り、研究者を雇い、マスコミを抱きこみ、世論を自らの目的に沿うように長年操作して来た。2000年頃からは、インターネットの巨大プラットフォームを所有する数社の企業は、ほぼ全国民を監視し誘導することまで可能となり、ホワイトハウスに協力する見返りに、規制を逃れようとしている。一部の富裕層は、隠すことなく大統領選挙に直接投資し、ホワイトハウスの要職を手に入れたり、便宜を図って貰うことを期待している。これはトランプ大統領に始まった事ではない。これらのことが半世紀あまりの間に、積み重なり、所得等への累進課税は逆進性を持つまでになり、また金融商品や投資の規制はことごとく緩められ、金融危機が再来するようになった。これらは富者を益々富ませることになっている。一方で労働組合は弱体化され、福祉政策は縮小されて来たので、多くの国民は不安定な状況に晒され続けるようになった。
4-2 なぜこのようなことが起きてしまったのか
経済的な側面
現在の大半の米国民にとっての悲惨な経済状況は、行き過ぎた自由競争が招いたと断言できます。概念で捉えると、市場での自由な競争は、生産と売買を効率良くし、生産者は工夫せざるを得ず、消費者は安く買えるはずでした。これが半世紀ほど主流になった思想であり、実際に自由化が図られ、多くの規制が葬られてきました。それがいつの間にか積み重なり、経済と社会から、ほぼ規制が無くなりつつあります。分かり易い例としては、公害、金融・投機、雇用、マスコミ等はかつて公益に失する事項については、事あるごとに規制法を定め、また監督機関を設けて、対処して来ましたが、現在はことごとく破棄されています。さらに加えて、国家の重要な役割だった公的サービスや再分配機能を放棄しつつあります。米国の場合は、初めから公的医療保険は貧弱だったのですが、改良は遅々として進まない。半世紀以上前なら、所得税は累進課税が当たり前でしたが、今や、巨大企業や超富裕層ほど税金を払わなくて良いようになっています。課税率の低下に加えて、様々な優遇税制が創られ来たからです。階層の固定化が進んでいる理由の一つに、上記の税制に加え、相続税等も巨額の遺産を子孫に残せるように改変されています。この辺りになると、自由競争奨励の目的から離れて来ます。実は、このような本来の競争奨励から離れて、結果的に大企業と富裕層を守ることになる数々の法律が創られて来ました。米国企業の薬価が高値維持できるように、工業所有権を都合よく強化したり、薬価決定に国の機関が関与出来ないとか、様々な小細工を繰り返して来ました。主に共和党がこれらの改変を行い、後に民主党が修正を試みるのですが、焼け石に水の状態です。グローバル化は共和党も民主党も共に、促進してきたが、国内の産業空洞化に対して、共和党は自由を標榜し、手を打ったなかった。一方、民主党は、労働組合の交渉力強化で、国内撤退の被害を抑制し、また国内産業構造の転換に備え、高知識社会を目指す大学進学を奨励した。残念ながら、現時点では、どちらにしても状況の改善には至っていない。さらに米国は、他の民主主義国家としては珍しく、かなり身勝手な振る舞いを重ね、海外の先進国の協調体制を壊してきました。端的な例として、地球温暖化対策とタックスヘイブン対策があります。どちらも米国内の大企業と富裕層を守る為です。これらは回りまわって国民に損害と負担増を招いています。タックスヘイブンで富裕層の数割の資産が無税になっているのですから、国の税金不足に拍車が掛かり、サービス低下を強いる一方で消費税アップを図っています。まったく馬鹿げています。
こうして見てくると、現在の悲惨な状況はほぼ規制の無い自由競争に加えて、大企業や富裕層、金融取引(投機)が優遇され、ほとんどの国民が放置され、保護が失われた結果と言えます。
国民はなぜ悲惨な状況を改善できないのか?
上記の悲惨な状況は1980年以降、徐々に深まって来た。一つはゆでガエルの状況と同じで、気づき難いのだろうか。実はそうでは無い。米国民の大半は悪い状況に以前から気が付いているが、何が真の原因で、どう改良すべきかが分からないのだろうか。これも違う。正しくは、国民は真の答えから目を逸らされているのです。
2回、トランプは大統領になった。これは一応、民主的な選挙の結果です。トランプの経済的な解決策で重要なのは、空洞化した産業を国内に戻し、労働者に就職先を与えると言うものです。関税を掛けて、相手国を脅し、相手国の資金で米国内に工場を誘致すると言う、画期的で米国民の懐が痛まない良策に思える。この策は、米国が率先して行って来た自国の多国籍企業化をやり始めてから、画期的な転機でした。しかし、これは問題が多すぎる。関税で米国消費者の購入額が上昇し、生活が苦しくなる。また半世紀以上も生産技術や技能工を見捨てて来たのに、今さら工場が来たからと言って、うまく稼働するとは思えない。当然、品質も価格も思いどうりならないでしょう。どちらにしても数年~10数年のタイムラグがあり、その間、苦痛が伴う。一番の問題は、米国の過去の責任放棄を、今になって相手国を犠牲にして、利を得ようとしている事です。この結果、互いに関税を掛け合い、貿易が縮小するとか、相手国の国内投資と労働者の職を奪うことになる。最も企業は、米国に投資することに利があると判断しているので、日本のような国では反対は起こらないが、国内産業の沈下とにより将来に禍根を残すことになる。これは、これまで共和党が行って来た目くらましの最たるものです。真の原因は、空洞化を無制限、つまり自由化させて来たからであり、また何ら労働者への対応策を行ってこなかったからです。それをあたかも一度に解決できると唱えたことに問題があります。本来のあるべき姿は、北欧がやり遂げているように、高付加価値産業への構造転換を行うために、産業界と労働界が協議し、納得の上で、方向転換を図ることです。産業は必要な投資を行い、労働者は新たな技能の取得を目指します。このために労働者への転職支援(技能講習と休職保障)が不可欠です。こうして北欧は産業転換を図りながら、高い国際競争力と一人当たりGDPを維持しているのです。
トランプと共和党の他の経済政策は、大半の国民(中間層以下)にとってそれほど経済的にメリットがないか、むしろ回りまわってマイナスになるものです。ほとんどは大企業や富裕層にメリットのあるものです。それでは、なぜ国民はトランプや共和党に期待するのでしょうか。我が身を振り替えれば生活の悪化か横這いが長期に及び、普通に考えれば政策の欠陥が分かると思うのですが、それが見てていない。確かに共和党の方が民主党に比べ景気刺激策に力点を置いてきたとは言えるが、全体として中間層以下の人々にとってマイナスだった。次項では、なぜ国民は真実を見ることが出来なくなったかを探ります。
目くらまし戦術1
大半の米国民は、経済格差拡大やアメリカンドリームの終焉を感じています。しかし、その真因と解決方法がはっきり見えないのです。これには大きく二つの理由があります。一つは、反リベラルのイデオロギーであり、二つには、新自由主義への信奉があります。
反リベラルの発端は、労働者らが20世紀前半に成功させて来た待遇改善と、それに付随した人権尊重の運動に対して、保守派が不快感を持つようになったことにあります。これの象徴的な成功事例は、ルーズベルト大統領のニューディール政策でした。最も、この労働者と国民の運動は、米国だけの潮流ではなく、英国発の産業革命の負の側面(特に過酷な労働条件)に対して、19世紀中頃から国民的な盛り上がりによって起こった運動でした。この潮流は、英国で始まり、フランスやドイツ、遅れて米国、さらに遅れて日本にもわずかに影響が及びました。ここまでの説明では、特に問題点は無いように思えます。しかしやがて、労働組合の力を笠に着て、労働者貴族の横柄さの噂が強調されるようになります。さらに時を経て、移民や黒人らが、必要以上に優遇(アファーマティブ・アクション)され、国民の血税やチャンスが、彼らに盗まれていると言う噂が強調されるようになります。そして米国連邦最高裁において、2023年、このアファーマティブ・アクションが違憲と判断されました。この政策は、多数の民族が共同する国々で、実績を上げて来ました。当然、この政策を世界に先駆けて、取り入れたのは米国のケネディ大統領で、公民権運動援護の一環として行ったのです。これが半世紀を経て、潰えたのです。ここに米国らしい、国民の手に負えない大きな動きがあるのです。
それは連邦最高裁の判事の保守とリベラルの比率なのです。2023年の連邦最高裁の判事は保守6人、リベラル3人でした。これにより違憲とされたのです。つまり、国民や議会が最良と思える政策を実施しようとしても、最高裁が保守(共和党)に握らている限り、実行出来ないのです。この状況はレーガン時代(保守5~6、リベラル3~4人)も有りましたが、民主党政権では融和策をとり、5対4で推移していました。しかしトランプが、一気に6対3に持っていたのです。これもトランプが保守派から歓迎される理由の一つです。過去にも保守優位の最高裁において、労働組合弱体に繋がる判決が出ています。2014年(保守5対リベラル4)、ハリス対クイン事件で、「本人が望まない場合に組合の活動費(agency fee)を徴収することを認めない」判断をしました。これは、1世紀以上前の労働運動で勝ち取って権利だった。このような判決、裁定、法が積み重なり組合は弱体化して行くことになりました。加えて、同年、マカッチョン対連邦選挙委員会の判決と2010年と2010年のシチズンズ・ユナイテッド対FECの判決により、今の金権選挙が完成したと言えます。前者は選挙への寄付総額の上限廃止、後者は選挙広告への上限廃止でした。
日本で、この状況を理解することは難しい。最高裁判事が公正な判断を下すというよりは、二派に分かれて対立しながら社会を方向づけしている。それも選挙を経ない、たった9人の約半数で決まる。これにも裏の事情があります。連邦最高裁の歴史は200年を越えるのですが、二大政党が良識を持ち、融和を優先し、判事を概ね半数づつにし、均衡を保つようにして来たのです。ところが、レーガンの時から、共和党は敵対的な姿勢をとり、事あらば最高裁判事の自陣営の数を増やすようになり、トランプで最高潮に達したのです。紳士的に振舞った民主党が愚かに見えます。とは言っても、日本の裁判制度の方が優れているわけでは有りません。日本の場合、最高裁を含めて判事の人事は、中央官僚の意向が働き、長年与党の政策に逆らう判決は出て来ません。例えば、原発建設反対が地方裁判所で認められても、その上級にあたる高等裁判所の判事は、中央の息のかかった者に挿げ替えられ、必ず判決は覆されました。これに比べれば、米国は州の最高裁判事は、州ごとに選ばれるので、右にならえにはならない良さがあります。
この流れの中で、気づいて欲しいことは、米国の保守勢力があらゆる力(最高裁、マスコミ、政治献金、ロビー活動等)を使い、弱者救済、人権擁護と並んで労働組合敵視を長年、国民に植え付けて来たのです。これにより企業家等は労働者の賃金低下と首切り、配転等で有利になり、益々、利益を上げることができます。これが反リベラル・キャンペンの大きな目的です。したがって、保守はしきりに、ルーズベルト大統領のニューディール政策の成果否定に躍起です。そして着実に、資金力の多さ、そして大企業こそが政治を牛耳るようになって来たのです。
目くらまし戦術2
前項で述べたことは、民主党の政策、リベラルの政策を敵視することで、真因を見えなくすることでしたが、もう一つ、リベラルの政策を敵視出来る強力な手段があるのです。それは人間の本能に揺さぶりをかけることでした。それが同性愛と堕胎の問題でした。米国以外の先進国であれば、同性愛は当人の自由恋愛を尊重し、堕胎は健康と育児に関わるので女性の判断を尊重し、彼らの人権と自由を守ることになると考える。しかし米国では、同性愛禁止は聖書に書かれているから、堕胎は命を大
切する聖書の教えに反するからと、キリスト教原理主義者(福音派)らは考える。そして、この教派を大々的に選挙に取り込んだのが、レーガン大統領からで、その後、この関係はより深く結ぶ付くようになった。なぜなら、この教派は米国人口の1/4に達しているのですが、その熱心さゆえに、票に及ぼす力は人口比を上回るのです。確かに、聖書には、それらしい解釈を可能にする文言はあります。ただし、同性愛禁止や堕胎禁止を匂わす旧約の章は、古くは3000年前まで遡れます。このような時代の風習を今に守ることが正常な感覚とは思えない。最も、信仰の自由は尊重されるべきだが、政府が特定の教派の人権保護に抵触する可能性のある要望を政策実現することで、票を手に入れる事は憲法の趣旨に反するように思うのだが。
さらに不思議に思うことがある。人権先進国の北欧諸国は、元を辿れば同じプロテスタントです。つまり聖書の文言を重視する教派の国と言えます。それなのに、この国々では同性愛や堕胎は本人の自己決定権を保証されています。米国の福音派だけが特別なようです。また非常に奇妙に思えるのは、福音派がハルマゲドン(最終戦争)を信じて、世界が戦争で破壊された後、パレスチナの地にキリストの再臨が起きると信じていることです。そして聖書が大きな隣人愛を説いているにも関わらず、イスラエルの虐殺を支援して止まないのです。当然、地球は球体でなく、人類は猿から進化していないと考えます。こんなカルト集団に振り回されては困ると思うのですが。実は、共和党は、強力な宗教集団を利用するのに躊躇がないのです。
共和党には、民主党との敵対を最初に訴えて人気を博したギングリッジ議員がいますが、この人物が米国で最初に統一教会を共和党の味方に引き入れた。この議員は、反共産党や家族重視で統一教会に共鳴したとされるが、家族や個人を苦境に陥れた統一教会に近いづいたのは、やはり票が目的だと思われる。これは日本の岸に始まり安倍で終わった統一教会の利用と同じだった。結局、日米の保守政党は、票のためなら、一部国民への害には目をつむる特性があるようです。こうして、福音派と共和党はがっちり手を組み、互いに手に入れたいものを得たのです。福音派は、同性愛禁止、堕胎禁止、進化論授業禁止、イスラエル軍事支援を手に入れ、共和党は、代わりに民主党拒否(反リベラル)を通じて、最終目標の労働者権利剝奪、減税と企業・富裕層優遇を手に入れたのです。私に言わせれば、共和党の得たものは福音派の得たものより、遥かに市場価値(経済的価値)が大きい。正に濡れ手に粟であり、福音派の人々に同情する。米国南部に暮らす多くの福音派は、現地の地下資源開発企業の大きな公害被害にめげず、企業の発展による地域振興に夢を託し、減税による低福祉や定収入に我慢し、崩れ行く共同体をキリスト教会への固い信仰で守ろうとしている、実にけなげな人々です。選挙の為に、彼らを食い物にしている人々が憎い。トランプの言動に、その様子が端的に現れている。彼は信仰心もなければ道徳心も無いが、福音派の票を手に入れる為に、戦争を行い、人権など無視している。
宗教と道徳について
信仰の自由は守らてしかるべきです。しかしその信仰を理由に、一方的に他者の自由や権利を剥奪する事は許されない。これは現代の魔女狩りの一種であり、悪夢です。しかし米国、特に共和党や自民党(安倍派)には、宗教による弊害への意識が稀薄です。とは言っても、信仰を必要とする人は多い。さらに人は道徳感情を大なり小なり持っている。これは様々な心理学実験で確認されている。道徳感情には、思いやり、公正、忠誠、権威、神聖、自由等があり、保守派とリベラル派で重視する道徳感情に差異があり、遺伝的に決まっているとする学説がある。これは心理学者のジョナサン・ハイトらが提唱した道徳基盤理論です。彼はリベラルが重視するのは上記の内、思いやりと公平の二つだけとし、他の三つを軽視するので、保守が理解できずに、分断が生じるとしている。
私は道徳感情の存在は認めるが、二つの理由でこの説に反対する。一つは、これらは進化で生まれた感情ではあるが、遺伝だけで各人の感情に差が出るとするには問題があり、むしろ文化が重要と考える。そうであれば我々がこれら道徳感情が現代社会に適合するかを判断し、理性でコントロールすれば良いだけである。例えば、遺伝に支配された欲情のままに生きるべきと信じるのは馬鹿げている。今一つは、道徳感情の中でも、宗教に関連付けられ易い忠誠、権威、神聖について、他者がその心情を理解する必要はあるが、行き過ぎた陶酔は危険であることは知られている。問題は、既に述べたように、教団や政治団体がこれらを悪用してしまうことです。付け加えるならば、多くの共同体は、無意識に、この道徳感情によって団結を強化している。特に宗教にその力が大きい。道徳感情が保守やリベラル、宗教を選ぶと考えるより、集団や宗教が道徳感情を強化していると考えるべきです。永続している共同体の中では、これらが強く育つている。このことは米国の福音派や、ヒンドゥー教徒のバリ島バンジャール(共同体)にも言えるだろう。これをもって宗教を非難するのではないが、行き過ぎは、その共同体を閉塞状態にする可能性がある。これらの理由で、この道徳基盤理論により、左右(共和党と民主党)の分断を説明し、理解することで融和を図るべしとする案では、問題の解決にはならない。分断を起こしている力の源は単純だが、その影響力は強力でしたたかであり、心理学のみで単純に解決できる問題ではない。
実は、20世紀以降、宗教が懐古・原理主義的になり、世界各地で混乱と反動が生まれている。イランで、1979年、イスラーム革命が起きた。これは預言者ムハンマドの時代や初期イスラームの教えへの回帰を掲げ、当時の過度な西洋化を「イスラームの精神を汚すもの」として激しく批判しました。サウジラビアは1932年に建国されたが、この王家は、初期イスラームの純粋な形に戻ろうとする「ワッハーブ主義」を取り込むことでアラビア半島の統一への力を得た。インドのモディ政権は、「純粋なヒンドゥー教徒の土地としてのインド(ラーマ神の治世)」の復興を理想とするヒンドゥー右派の宗教情熱を取り込むことに成功している。イスラエルのネタニヤフ政権の連立に不可欠なユダヤ教右派は、神がユダヤ人に与えたとされる「約束の地(ヨルダン川西岸地区などを含む)」の領有と、ユダヤ教の律法(ハラーハー)に基づいた国家運営を求めます。ロシアもロシア正教に回帰している。
これらには共通していることがある。現代の急速なグローバル化や世俗化(リベラル化)に対する「強い危機感」が背景にあり、「かつての正しかった時代」という神話的な過去を再構築しようとし、個人の信仰にとどまらず、「選挙(あるいは革命)」という世俗の政治システムを高度に利用し権力を掌握しようとしていることです。この危険性と恐ろしさは、外部から見れば明瞭のですが、埋没していると分からないのです。1990年代に、ハンチントンが「文明の対立」を予言したが、残念ながら異なる現象に世界は苦しむことになった。つまり、「文明間の衝突」ではなく「文明内部の分断(文化戦争)」になってしまい、これを利用することで協力な独裁が生まれつつあるのです。未来を予言するのは難しい。
米国の宗教と共和党の合体
欧州と比較すると同じキリスト教圏でも、米国は異なる。銃犯罪の多さ、暴力への寛容さ、そして福音派等のセクト化(巨大な組織だが排他的)、政治への関与等です。米国は、英国と同じ白人(アングロサクソン)だが、北米大陸で育まれた文化を持っている。米国は、かつてピューリタン(プロテスタントの一派)が北米大陸に植民したことで始まった。彼らは英国教会から脱することにより自らの信仰に忠実であろうして、未開の地に移住し、森林を切り開き、町を造って来た。そして勤勉・勤労であり、聖書に忠実であろうとした。これが今の米国の精神を育み、発展を支えているとかつて賞賛されたことがある。しかし私には、深刻な軋轢(歪)が生じているように思える。
かつて英国のキリスト教は、様々な人権活動の先端を切り開いてきた。19世紀初頭、英国は国家的な奴隷貿易禁止を行い、大きな世界的な動きとなった。これは奴隷解放宣言の最初ではないが、一教派が国民運動を起こして、可能になったものでした。当時、英国の海外における奴隷貿易は巨額の利益を挙げていたのが無くなり、これが英国の帝国主義に向かわせた説もあるぐらい大事件でした。また英国において、古くは貧民救済は教会や修道院が行っていました。やがて宗教改革により、国が修道院を没収すると、各教区(教会)毎に教区内の住民から救済税を集め、貧民救済を行わせた。これは19世紀中頃には廃止され、国の行政システムに替えられた。これに比べ米国の教会には、大きな違いがありました。一つは、様々な宗教やキリスト教派が各地域に教会を造り、統合される事もなく、まして国からの支配もなければ財政支援もありませんでした。つまり独立独歩から始まった。これが憲法で政教分離がうたわれた理由です。もう一つは、大平原と森林を一から開拓し、開墾地は彼らの所有地になったのです。また広大な原野に村や町が点在していきました。この間、先住民(北米インデアン)の追い出しと虐殺は、例外なく行われました。これが西部開拓です。これらを背景にして、米国では300年間に三波の信仰復興が起きました。この復興とは、突然、信仰に燃えた人が聴衆に神への信仰に目覚めるように回心を求める演説を始め、それが各地に広がり、大きなうねりとなり、回心者が増えた。このブームは長続きはしないのですが、キリスト教徒の意識を高め、幾つかの社会運動と結びついて行きました。この演説者は、多くの場合、正規の牧師や宣教師ではなく、既存の教会から自由な人々でした。これが受け入れられた背景に、町や村は比較的新しく、強固な文化やネットワークが存在しておらず、他から流れて来た演説者は、村人の孤独感を癒した事も大きかったのでしょう。
こうして米国の初期の白人、キリスト教徒には、大きな変化が現れました。初期には、政治支配者や教会の権威、つまりエスタブリッシュメントに反発し、必要あらば既存の教会からも独立し、地域毎に自由を選びました。これが幾たびかの信仰復興を経て、人々の平等や自由への意識が強くなって行きました。米国憲法は政教分離をうたっているが、宗教団体の政治活動は基本的に認められています。19世紀、福音派は、貧困層への救済活動に熱心でしたが、20世紀後半から、政治や社会問題に積極的に関与し、イスラエル支援を強硬に唱えるようにもなっている。
1980年以降、米国の信仰復興(リバイバル)のエネルギーは、「宗教右派」と呼ばれる強力な政治運動へと姿を変え、社会を二分するほど過激化していきました。本来の「個人の心の救済」や「貧民救済」から、「国家の権力を握り、キリスト教の価値観で法を変える」という政治的な戦いへシフトしていったのが、最大の特徴です。それまで政治と距離を置いていた福音派が、保守派の政治家と手を結び、巨大な集票組織を作りました。これをモラル・マジョリティ(道徳的大多数)と呼びます。牧師ジェリー・ファルウェルらが結成し、人工中絶の反対や、公立学校での祈りの時間の復活を掲げました。福音派の圧倒的な支持により、ロナルド・レーガンが当選し、宗教勢力が大統領をも動かす政治の主役に躍り出ました。1990年代〜2000年代には、彼らは文化戦争を激化させ、メディアの発達(宗教専門のテレビ・ラジオ)を利用し、テレビ伝道師が活躍し、草の根の支配を強めました。パット・ロバートソン牧師らがキリスト教徒同盟を設立し、共和党の地方組織を実質的に乗っ取るほどの力を持ちました。2000年代、彼は「生まれ変わった」クリスチャンと宣告するブッシュ大統領を支え、イラク戦争の支持や、同性婚反対の運動を過激化させました。2010年代から現在、トランプ支持と「キリスト教ナショナリズム」が台頭していきます。ここ数年で、過激化はピークに達しています。信仰の熱狂が、過激な政治思想と完全に融合しました。2016年以降、 伝統的なキリスト教徒のイメージとは遠いドナルド・トランプ氏を、白人福音派の約8割が支持し、トランプ現象が起きました。「不道徳な指導者であっても、神がアメリカを守るために選んだ現代のキュロス王」と解釈したためです。聖書では、異教徒でありながらユダヤ人をバビロン捕囚から解放したペルシャの王として賞賛されている。またキリスト教ナショナリズム、「アメリカは神によって白人キリスト教徒のために作られた国であり、その特権を取り戻すべきだ」という過激な思想が広がりました。2021年の連邦議会議事堂襲撃事件でも、十字架や聖書を掲げる人々が多く見られました。さらに最高裁で保守派の勝利が続いていました。2022年、保守派の長年の悲願だった「人工妊娠中絶を認める判決(ロー対ウェイド判決)」の覆しに成功。これにより、宗教的なルールがアメリカ全土の法律に直接影響を与える時代へ突入しました。
かつて19世紀の米国の第2次大覚醒では、信仰の熱狂が「奴隷解放」や「貧しい人の救済」という社会を優しく救うエネルギーになりました。しかし1980年以降は、「中絶」「LGBTQ+の権利」「移民問題」などをめぐり、自分たちの聖書的価値観を法律で強制しようとする「他者を排除し、国家をコントロールするエネルギー」へと過激化していったと言えます。
この流れに恐怖を感じる人もいれば、かつての信仰復興と同様で、一過性であり、社会改革の一助になると楽観する人もいるかもしれない。しかし私は今、歴史(悲劇)は繰り返され、米国だけでなく世界が危機に瀕していると判断しています。その一例を紹介します。それは「赤狩り(マッカーシー旋風)」です。アメリカのキリスト教、とりわけ福音派が現代のような強大な社会的地位と政治力(のちの宗教右派)を獲得する決定的な転換点となりました。この時期、冷戦の恐怖を背景に新しい信仰復興運動が巻き起こり、福音派は「反共産主義の急先鋒」として国家の主役に躍り出ました。これを指揮したのは共和党のマッカーシー議員でした。当時、米国内での被害としては、共産主義の疑いをかけられ、多くの映画関係者から民主党系の国務省スタッフ、学者等が職を失い、投獄もされた。しかし、一大ブーム(1947年~)を起こした熱狂も4年ほどで下火になった。しかし、当時、占領下にあった日韓では、共産主義にまつわる公職追放、解雇、思想弾圧、果てには投獄・虐殺が起きた(1949年、国鉄総裁下山事件など)。これは日本の労働運動に多大な禍根を残しました。米国、特に福音派は、共産主義を悪魔の思想と定義し、その後も憎悪は続いています。共産主義への過激な否定感情を通じて、むしろ米国内、特に共和党は国民の一体感を醸成することを学びました。赤狩りの時代、「共産主義の脅威から救われるには、今すぐ悔い改めてイエスを信じよ」と唱える福音派の最大の伝道師を共和党アイゼンハワー大統領は顧問に迎えています。結局、恐怖や敵、多くは悪魔に対して国内が団結する術を手に入れ、その過程で、甚大な被害が出ているのです。それは米国の大戦後の出兵や戦争、ベトナム戦争やイラク戦争は、それらが夢想が生んだ結果とも言えます。
1950年代、マッカーシー旋風とリバイバルの波によって、米国は神の国になっていたのです。 1954年、赤狩りの最中に、公立学校などで唱えられる「忠誠の誓い」の文章に 「神の下に」という文言が正式に追加されました。その2年後には、アメリカ紙幣にも印刷されている "In God We Trust"(我ら神を信ず) が国の公式モットーとして法制化されました。これらはすべて、「無神論のソ連(赤)」と「神を信じるアメリカ」を明確に区別するための、マッカーシー思想と福音派リバイバルが合流して生み出した産物です。
真実はどうして葬られたのか 1
いくら信仰復興が燃えあがり、信仰心が高まっても、現代は科学の知見があまねく社会を照らしている。数千年前に遡る聖書の予言や格言に先進大国が振り回されるとは思いもよらなかった。実は、宗教のみが真実を覆い隠す役割を果たしたのでは無い。もう一つ深い闇が社会を覆いつくしているのです。それは一つの真実が、数多くの虚偽の中に埋もれるようにして来たからです。この歴史は古いのですが、ここ半世紀以降、特に21世紀になると各段に進んだのです。
分かり易い例があります。2017年、トランプ政権のスパイサー大統領報道官は、トランプ氏の就任式に集まった群衆の規模について「過去最大の人々が就任式に参加した」と主張した。しかし、メディアによる空撮写真や公共交通機関の利用データなどからは、前回のオバマ大統領の就任式時よりも少ないと指摘された。これについて、コンウェイ大統領顧問がテレビ番組に出演した際、「スパイサー報道官が示したのは嘘ではなく“代替的な事実(alternative facts)”である」と述べ、正当化していました。この大統領の発言は虚言の方が多いのですが、虚実取り交ぜ、応援者には夢を与え続けて、批判に対しては報道機関と国民を煙に巻いてきました。実は、この煙に巻くから、米国民は真実と科学的知見から遠ざけられて来たのです。日本の原発推進にも同様な事例が見られますが、米国で特に著しい。
1950年代、喫煙と肺がんの因果関係が指摘され始めると、大手タバコ会社は共同で「タバコ産業調査委員会」などの偽装団体を創設しました。これは中立的な研究機関を装いながら、実際には業界に都合の良い偽物の専門家を雇い、科学的論争が未解決であるかのようなプロパガンダを流し続けたのです。さらに、あえてタバコと直接関係のない、癌の発生プロセスなどの広範な生化学研究に巨額の資金を提供しました。これにより、世間に対して「私たちは健康問題の解明に真摯に取り組んでいる」とアピールしつつ、因果関係の結論を遅らせる時間稼ぎを行いました。タバコ会社自身は、すでに「ニコチンには強い依存性があり、タバコは癌を引き起こす」という真実を突き止めていました。1980年代に受動喫煙の害が証明され始めると、タバコ会社は「お抱えの科学者」に資金を出し、「科学的な証拠が不十分である」とする論文を発表させました。さらに、室内の空気汚染の原因をタバコではなく「ビルの換気システムの悪さ」や「他の化学物質」のせいに高額な宣伝キャンペーンで誘導しました。この間も、真実のデータはすべて極秘とされ、1990年代の米連邦議会の公聴会でも、タバコ会社の最高経営責任者たちは「ニコチンに依存性はない」と宣誓供述をして嘘をつき続けました。しかし、あるタバコ会社の開発担当副社長は内部告発により解雇され、さらに会社とギャングから激しく攻撃された。しかし彼の証言などにより1998年、大規模な損害賠償請求訴訟において歴史的な和解(勝訴)が成立した。
実は、この「確実な証拠がない」「議論はまだ続いている」という「疑念の製造」戦略は、今も形を変え継続しているのです。最も危険なのは、天然ガス・石油掘削会社と共和党による地球温暖化隠しです。他にも、保守系シンクタンクが様々な、「疑念の製造」戦略に加担しています。ルーズベルト大統領のニューディール政策の否定が、一例です。このような目くらましが、半世紀以上、巨額の資金をつぎ込んで垂れ流されているのですから、大半の国民は真実を見ることが出来なくなっている。一人一人が科学的論拠を確認するのは困難です。私も含めて日本の皆さんもこの手に乗らされたことがあった。十名を超える著名人が、それぞれ電力会社による原発PRで、テレビに良く出ていたことを覚えているでしょう。これと新聞等の宣伝記事を含め、電気事業連合会が長きに渡り1千億円程の資金を擁して、原発のイメージ回復を図った。その効果はあったが、東北大震災の原発事故で吹っ飛んだ。
真実はどうして葬られたのか 2
残念ながら、21世紀、特に2010年以降は、さらに困難な状況に追い込まれている。単純だがトランプの前回の4年間で3万回を越える虚言は、歴史的にも珍しい。彼は1日に10~20回、虚言や紛らわしい言説を吐いている。選挙集会等で、自陣営の聴衆を喜ばすために、また報道機関から批判的な質問を受けると、彼はほとんど虚言か誇大な言説を連呼する。勘違いなのか、意図的なのか、無知に起因するのか、すごい。報道機関等のファクトチェックに膨大な手間と時間が掛かり、究明に追いつかない。さらに巧妙なのは、大手マスコミを毎回、フェイクニュースと罵り、トランプを絶賛するFOXや一部のインターネットニュースサイトのみが真実を報道していると付け加える。今も、トランプ氏支持者は頑強に彼を信じて疑わない。しかし、これはほんの序の口です。
既に、インターネット上で嘘がこだまのように反響している事は周知の事実です。この状況を差す言葉、ポスト・トゥルース(Post-truth)が2016年に有名になりました。これは世論形成において客観的な事実よりも、感情的な訴えや個人の意見のほうが強い影響力を発揮する状況を指しています。イギリスのEU離脱(ブレグジット)やアメリカ大統領選でのトランプ陣営勝利など、世界政治がデマで大きく動いた事を差したものでした。このような状況が生まれた背景のひとつに、SNSの普及によって、誰でも簡単に世の中に対して個人的な意見を表明することが可能となったと同時に、多くの情報を瞬時に流通・拡散できるようになったことが挙げられる。利用者が見たい情報だけを見る「エコーチェンバー」や「情報のサイロ化」(広く連携できない孤立化)が進んだことが大きい。SNSの普及は、個人的な考えの影響力を増殖させた一方で、フェイクニュースと呼ばれる事実と異なる情報が短時間で世界中に流布されてしまう状況も招いた。その結果、テレビやラジオ、新聞、雑誌といったオールドメディアの影響力は相対的に低下し、客観的事実が軽視されるようになった。このエコーチェンバーは、人間の心理(自分にとって心地良い情報を選択)とSNSや検索エンジンのアルゴリズムが、個々の利用者の興味(情報)を分析し、望みを叶えるように優先表示している事で、加速している。利用者はさらにこれが繰り返され、より狭い範囲の情報に閉じこもるようになる。この状況を巨大プラットホーム(Google、メタ等)が莫大な広告料欲しさに、コントロールし、トランプの1期の選挙から、選挙に有利になるように細工した可能性がある。当然、大統領就任後、リベラルが望むSNSの規制を保護にするのと引き換えを目指してのことのようです。ただし、この事実は表面化(確認)していない。実に恐ろしい時代に突入したものです。この選挙時に、ロシア(プーチン)がトランプを勝たせるために、ヒラリー候補にダメージを与える為に、SNSで攻撃していたことが、ほぼ確実視されている。
深刻度が増すポスト・トゥルース時代と混迷を深める経済・社会にあって、我々はどう対処すべきなのか?
すがり続けた夢の果てに
米国民の大半が、この夢に幻惑され待ち続けて、さらに何割かの人が、神の下に在り続けるなら、夢は潰えても良いとまで思っている。これが米国民の心情を要約している。神の問題は、既に説明してきました。これからは、最大の問題、幻惑し続ける夢について語ります。
その正体は、新自由主義と呼ばれるイデオロギーです。幾つかの分かり易い事例を挙げます。一つは、トリクルダウンです。これは、シャンパングラスを積み上げ、最上段にシャンパンを注ぎ、やがて最下段にまで滴り落ちる例えで示されます。富裕層や大企業が豊かになることで、最終的に貧困層など社会全体にも富が浸透・波及するという考え方です。半世紀も待って、貧富の差は異常なまでに拡大し続けている、それも米国で。理由は単純で、労働者の賃金は横這いで、社会保障は削られる一方で、富裕層や企業は大幅に減税され、独占により価格は高騰、金融投機はやり放題が答えです。つまり、国民=労働者の生活は苦しく、金持ちほど投機利益を増やせるようになったことが大きい。挙句に、投機の為の借金増大は必ず巨大な金融危機を招きます。この危機の数年後、不思議なことに、超富裕層はより豊かになり、大半の所得層は後遺症に苦しむのです。リーマンショック時には、多くの人が住宅を失い、借金が残りましたが、危機を招いた大手金融機関は国民の100兆円(税金)で倒産を免れました。この経済的・政治的な仕組み、複雑なのですが、大まかに言えばこうなります。懐かしのですが、故安倍首相が、意気揚々とトリクルダウンをまくし立てていたのを思い出します。当時、既にこのメカニズムは否定的に見られていた思うのですが、やはり日本は周回遅れが際立っているようです。
もっとも罪な経済理論である「完全な自由市場こそが消費者に最大の利益をもたらす」について考えます。これは新自由主義の三大テーマ、小さな政府、市場原理の重視、自己責任論の一つです。このテーマの前者二つとマネタリズム(金融数量説)は、当時絶大な信頼を得ていたミルトン・フリードマン、ノーベル経済学者が提唱したものです。半世紀も経た今となれば、どれも齟齬をきたしている。むしろ米国の災厄は、これら理論の呪縛から抜け出せないことにある。この市場原理(自由市場)については、共和党も民主党も共に推進し、他の小さな政府、自己責任論、マネタリズムについては、民主党は抑制気味でした。
政府が規制をなくして市場を完全に自由にすれば、無数の企業が競い合って効率化が進み、価格が下がり、消費者が最大の利益を得ると考えたのですが、理想どうりにはならなかった。規制緩和が進んだ結果、予測とは逆に「勝者総取り(ウィンナー・テイク・オール)」の現象が起きました。規模の経済やネットワーク効果(IT大手プラットフォーマーなど)により、市場は競争が激化するどころか、少数の巨大企業による寡占・独占が進みました。その結果、価格支配力が強まり、中小企業の排除や、富の極端な集中(格差の拡大)という弊害が生まれた。1980年代、レーガン、サッチャー、中曽根で始められた新自由主義の政策により経済が大きく変わり始めた。事の顛末を見て違和感を持つのは、この寡占の弊害は、既に繰り返されていたのに、これには目もくれず盲信し続けて来たことです、あたかも逃げ切るように。このような例として、減税すれば企業は投資に積極的になり、好循環を生む理論があり、レーガン政権は実施しましたが、双子の大赤字で苦しむことになった。二つの例から、多くの国民の利益が舞い降りて来ないにも関わらず、規制緩和と減税だけが営々と進められている、目的は別にあったのです。
フリードマンの理論でもう一つ外れたものを紹介します。彼は、固定相場制を批判し、為替レートを市場の需給に任せる「変動相場制」への移行を強く唱えた先駆者です。世界は、変動相場制に慣れ親しんでいる。しかし、為替の乱高下に腹立たしさを感じている人もいるはずです、特に海外旅行に行く人にとって、5年の間に旅費が2倍になることがあります。彼は、為替が自由化されれば、各国の貿易収支を反映して自動的に適正なレートに落ち着くと考えました。また、「投機筋」についても、彼らは価格が安い時に買い、高い時に売るため、むしろ為替を安定させる役割を果たすと楽観視していました。現実は異なりました。為替市場を支配したのは貿易などの「実体経済」ではなく、巨額の金利差や思惑で動く「国際的な投機マネー」でした。投機は価格を安定させるどころか、群集心理によって通貨の過度な乱高下を引き起こしました。これにより、一国の経済がわずかな期間で通貨危機(1997年のアジア通貨危機など)に追い込まれるなど、貿易や世界経済に巨大な不安定さをもたらす弊害が浮き彫りになりました。アジア通貨危機では、5ヵ国で大幅なGDP減少が続き、失業者、自殺者、福祉制度減額により病死者で数万規模で増えました。彼の説、一般的に学者の説は、基本は良くても、当時は目立つものでは無かったが、将来大きな影響をもたらす要因がいつでも埋もれているものです。一番の問題は、肥大を許してしまうと資金力と政治権力が手を握り、暴走を始めても、そこから国民の意思で抜け出せなくなることです。これが米国の状況です。
当時、フリードマンが最も信頼されたのは、彼の金融数量説の採用によって、当時のインフレを抑制出来たことにあり、画期的でした。しかし後に格差拡大を招く大きな原因となりました。これのすべてが彼の理論の欠陥によるものではありませんでした。マネタリズムの信奉から金融技術の進展が起こり、自由競争が重視された事と重なり、投機が巨大になり、実体経済と金融経済が乖離しました。そして巨額の利益は金融から生まれるようになり、投機が行き過ぎると、景気は加熱するが、やがて金融危機が繰り返すようになった。もう一つの問題は、多くの国で資金が投機に向き、本来の設備投資に向かなくなったことも長期的経済成長を抑えることになった。
現在、多くの経済学者によって、現状の新自由主義による経済運営は、様々な問題を生み出しているとし、個々の政策について批判され、修正が求めらている。もつとも保守系、富裕層、大企業はこれに反対していますが。
基本的な考え方
現状の経済状況を観察すると、異常であることは疑いない。明らかな事は、貧乏人はより貧乏に、金持はより金持ちに、しかも固定化されて来ている。また社会保障等が先進国中遅れたままです。当然、これは人為的な政策による結果です。なぜなら1980年代以降、多くの経済・社会指標が急激に悪化して来たのですから。これまで経済的な悪化の側面を幾つか見てきました。経済システム全体を見切るのは困難ですが、おおよその傾向は読み取れます。
行き過ぎ積み重ねらた政策が問題でした。大幅な規制緩和による自由競争、徹底した自己責任への転嫁、富裕層や企業に偏った大幅な減税など大きい。これらの弊害については、個々に簡単に触れて来ました。ここでは要約と、考え方を提示します。
先ず規制が必要です。私たちは長年に渡り、規制緩和こそが、良策と洗脳されて来ました。しかし、これは間違いです。一言で言えば、規制過ぎてもだめだが、規制が無いのも問題なのです。適切な自由競争を生むには、寡占を防ぐ規制が必要です。スポーツで言えば体重別の競技だからこそ良い場合があるように。自己責任を自覚してもらうことは勤労精神を育む上で需要ですが、個人の状況(健康、生まれた家庭、人種)や不意の事故等で、その後のチャンスが閉ざされる事は、社会にとってマイナスです。この理解は難しい。特に共和党支持者は、これら逆境にある人々に、税金が盗まれていると思わされて来た経緯があります。富裕層の減税総額と逆境を支える福祉費の比較をしてみましょう。概算ですが、富裕層の課税を大戦前の税率に戻すと、年間数十兆円が国庫に入ります(キャピタルゲインの課税は含まず)。もっとも米国は規制が緩いのでタックスヘイブンに多くは逃げてしまう。民主党がよく行う雇用対策費用は年間20~30兆円でしょうか。つまり富裕層に税金を負担していただくと財政赤字を増やさず、まともな福祉政策が戻ってくるのです。富裕層の減税は、単純に国民に益をもたらしたでしょうか。
重要な事は、政府の政策実施にあたって、適正なフィードバックが可能にしておく事です。現在は、明らかに間違っている政策であっても、変更、元に戻すことが出来ない。それは、富裕層と大企業が、豊富な資金力を使って、選挙などで優位に立ち、長年に渡り政府と国民を手懐けて来たからです。共和党は1980年代から急激に企業・富裕層優遇に舵を切り、民主党とは袂を分かっています。その政策は、法人税・所得税・配当税・相続税等の減税、規制緩和、労組への規制強化、企業補助等で、拡大の一方です。例えば、2025年の共和党の大型減税法案は、「年収100万ドル超の上位0.6%の1百万人が、年収10万ドル未満の1300百万人よりも大きな減税を受ける」とCenter on Budget and Policy Priorities(予算・政策優先事項センター)が分析しています。これが今の米国であり、トランプの実績なのです。
どうか真実から目を逸らさないようにしてください。
4-3 手強い相手
これまでの説明で、米国の大半の国民の置かれた悲惨な状況と、その理由、さらになぜ正常な状況へと回復出来ないかを見てきました。それでもまだ疑心暗鬼かもしれません。規制や監視を単純に強めるだけで、経済にブレーキを掛けず、国民の所得を上げ、暮らしを良くすることが出来るかと、不安かもしれない。幾つかの事例を採り上げて、少しは安心できるようにしましょう。
破綻は必ず不意に訪れる
日本において、公にトランプを賞賛している人は、大抵、保守でも右翼に近く、最近ではかなりを息を潜めている。それでもエコノミストの中には、強気に賞賛している人物を見かける。多くは株等の投機(金融)で生計を立てている。この手の人々は、トランプの経営手腕は凄い、腐ったリベラル思想から資本主義を守る勇者だ、はたまたこれからのAI産業革命を託せる大統領だと賞賛する。またこのタイプのエコノミストは、数々の相場(金融取引)で、予想を的中させながら勝ち抜いて来たと自慢しているはずです。私は1970年代から、幾多のビジネス書、特に半年から数年先の経済を予測してきた本を読んで来ましたが、間違いなく予想を外している方が目につく、当たることはほぼない。著者の多くは投機家ではなく、当時著名な学者でした。例えば、昭和バブルの時代、5年かけて株価は4倍になり、景気は絶好調でした。しかし1990年にバブルが崩壊し、株価は半年ほどで半減し、当然、地価も景気も急降下でした。巨大企業は残れたが、暴利を貪ろうとした企業と人々は、夜逃げしたり、消えていった。貴重な資産を無くした人が周囲に何人もいた。暴落前後の土地と株式の日本全体の評価損はおよそ1400兆円、GDP3年分が吹っ飛んだのです。被害は甚大でした。これを当時、日本の識者は予測出来たと思いますか? 私は当時、感心を持って世情を見ていました。一部の人は投機に浮かれ、多くの人は投機に乗り遅れたことを後悔し、この景気は危険だと思っている人はほぼいなかった。一人のエコノミスト(経済企画庁内)は崩壊の1年前に、資産インフレへの危険性を著書で指摘していましたが、「1年後に崩壊する」という具体的な期日や大暴落には触れていませんでした。
米国では、2008年のリーマンショック時、金融の神様と呼ばれたグリーンスパン議長でさえ、この崩壊を予見できなかった。彼は、後に米下院の公聴会で「市場の自己修正機能を過信し、自由市場モデルの欠陥を見抜けなかった」と発言している。一方で、数人のエコノミストは1~3年前ほどから異常に気づいていました。ただし暴落の期日の予想までは無理だったようです。
これらのことから幾つかの教訓が得られます。トランプが株価を非常に気にしているように、これは株価が大統領支持に直結しているからです。国民の年金や資産の多くは株で運用されているからです。株式は最大の投機対象であり、投機家は借金で投資を行い、ついに国内の民間債務総額がある水準を越えると、過去に幾度も金融危機を起こしています。つまり、現状では金融危機は不可避なのです。ただ崩壊メカニズムの詳細は不明で、的確に予測出来ません。これまで金融危機は4~8年間隔で繰り返して来たのですが、今回は珍しく、リーマンショック以降18年以上も起きていないのです。単純に、マグマが大量に蓄積されていると私は恐れています。そして、防ぐ手立ても今は無いのです。FRB議長が嘆いたように市場の自己修正機能は期待できない。さらに投機の規制や監視、指導の手立てをことごとく葬って来たのですから。現在の経済状況は、絶好調と言うより、綱渡りに近いと考えられます。したがって、絶好調と賞賛し煽る著者には用心してください。
トランプはそんなに素晴らしく、期待できるのでしょうか。彼のビジネスキャリヤは汚点の連続です。簡単に言うと、彼の不動産事業は倒産を繰り返し、法の範囲ですが負債をかぶらず、また違法ギリギリのあくどい手段で入居者の追い出し、また税金をほとんど払っていない(開示を拒否している)。彼は悪徳弁護士なしで事業を継続することは無理だった。プーチンは、トランプが苦境の時、うま味のある案件を提示し助けている。トランプの人気はテレビ番組「アプレンティス」で造られたものでした。トランプは科学的知見がほとんど無いので、これからの産業革命を指揮するのは不可能だろう。それはコロナ蔓延時のあたふたぶりで証明済みです。トランプがリベラル嫌いで、剛腕なのは正しい。だがリベラル、民主党は資本主義を否定しているのでは無い。ただ、大半の国民のために自由市場や投機の行き過ぎを修正すべきだと言っているに過ぎない。
歴史は繰り返す
共和党やトランプの目指す資本主義が真の資本主義かと問われれば、企業と富裕層を優先する偏った経済になってしまったと言えるが、腐敗した経済の方が正しいかもしれない。少なくとも、この半世紀の間に大半の国民にとって良い経済ではなくなった。人類史上、大半の国民が経済も含めて上昇気流に乗れた時代があった。大まかに言うと、英米において19世紀後半から20世紀初頭だった。これは英国の産業革命の成熟期であり、遅れて米国の大量生産方式が進展した時代でした。また両国でそれまでの過酷で低賃金労働を、労働者らが立ち上げた労働運動が身を結び、様々な労働条件の改善が進んだからでした。その後、米国では1930年代(ニューディール政策)に累進課税が強化され、急激に平等が進みました。第一次世界大戦や大恐慌がありましたが、労働者が始めて政府や権力に対峙して、交渉出来た時代だった。人類史上における画期だった。
ところが反動が起きた。第二次世界大戦後、主に二つの事が欧米を揺るがすことになる。一つは、特に英国でしたが、20世紀初頭は福祉国家に近く、国有企業による財政赤字増大と労働組合による賃金上昇とストに困っていた。もう一つは、米国が、4回の中東戦争でイスラエルを支援したことにより、アラブ諸国が米国を封じ込める為に、OPEC(石油輸出機構)を創設し、原油価格を数倍に上げた。後に30倍を越えることになるが、ずーと後のことです。これにより世界は急激なインフレに見舞われることになった。また米国の保守層が、リベラル的な労働者・黒人・女性等の人権擁護により、社会・文化の急激な変化を恐れたようです。そこで保守層は、レーガンを前面に押し出し、インフレ対策として、金融操作(マネタリズム)を進める一方、一気に労働組合潰しを始めた。この時、英国と日本も同調し、国有企業と労働組合潰しを推し進めた。こうして、20世紀前半に一世風靡した労働運動と累進課税は終わりを遂げたのです。つまり、長い封建時代の状況に戻ってしまったのです。
こうして見てくると、現在の米国の資本主義だけが、資本資本主義でないことが理解していただけると思います。実は、別に模範例があるのです。それは北欧諸国です。北欧は資本主義を基盤としています。当然ですが、自由市場、私有財産、海外貿易、労働組合(加入率7割)もあります。それに加え、手厚い再分配(医療費原則無料・学費無料・年金完備)がなされており、社会民主主義と呼ばれています。ただ税金は最も高い部類に属します。しかし日本と比べて、税金と公的な掛け金の合計の所得に対する比は、少し多いぐらいです。北欧は、この体制で、幸福度と一人当たりGDPのランキングで200ヵ国中、1位~6位ぐらいに入ることが多い。他の資本主義国より良いシステム、労使間の協調、転職の支援、労働者擁護、男女平等、小学校から環境・政治意識の高揚等があります。それでも、常時、システムアップを図っており、腐敗の無いのが一番です。
つまり、今の米国の資本主義が最良では無く、様々な形があり、かつては別の形だったのです。
テクノ・リバタリアン(テクノファシズム)
ここ10年ほどで、国の舵取りに大きな波乱要因が加わった。それはテクノ・リバタリアンの出現です。イーロン・マスクやピーター・ティールなどがその代表で、「高度な数学的・論理的知能と巨額の富を持ち、最先端テクノロジーによって国家の規制を排した自由な社会を実現しようとする思想・人物」のことです。庶民が彼らの思想が危なっかしいからと遠ざけようとしても、政治は彼らの資金力と発信力を利用することになる、トランプが露骨に利用して来たように。大統領就任式の時に、名だたるGAFAの代表者たちが寄り添っていたのが、今の時代を象徴していた。トランプと一度決別したイーロン・マスクは、2026年の中間選挙で、また共和党支援に1億ドル以上を投じるとしている。残念ながら、彼の知名度と資金は、その思想の是非に関わらず大量の票を獲得するでしょう。そして、テクノ・リバタリアンの思い描く政策が実現したら、米国はどうなるのか? 懸念される点を整理します。
先ず、彼らが目指す政治思想リバタリアニズム(自由至上主義)の問題です。これまで、米国の惨状は、自由放任の金融投機、寡占により機能しない自由市場、富裕層による政治支配、その結果として貧富の拡大が続いていると説明して来ました。ところが、彼らは公権力や国家の介入を極限まで排除し、個人の自由と自己責任の最大化を目指している。具体的には、自由な理想社会を造る為に、選ばれた天才だけが政治を担い、愚民は政治に口出さなくても良いと言うことになる。イーロン・マスクの現実の経営手腕、Twitter買収時の人権・倫理関連部門の全員解雇から、類推できる。
リバタリアンにも様々な人物がいて、極端なケースでは、政府は不要でインターネット上で国民は平等に関り、暗号通貨で経済を回すとする、空想に近いものもある。言い換えると、独裁から無政府主義まであり、共通しているのは、19世紀後半から20世紀前半、欧米が目指して来た自由民主主義とは相容れないもので、非常に危険です。
ここで少し歴史を振り返ると、同様の困難を労働者と市民が乗り越えて来た事例がある。時代を牽引した二人の発明家兼経営者を例に挙げます。18世紀半ば、英国の産業革命に火をつけた一人アークライトは、水力紡績機の特許を取得し、これが近代的な工場制機械工業の先駆けとなった。一方で彼が建てた工場では、何万人もの労働者が囲いに入れられ、厳しく管理されました。労働者には時計の針のように規則正しい行動と単調な作業が強要され、人間の本能に逆らうような過酷な時間管理と労務管理の原型が作られたとされています。このような経営者の横暴は、当時蔓延っていたからこそ労働運動が起きたのです。
米国でも幾つかの類似の事例があり、有名なのは自動車の大量生産システムを確立したフォードです。彼が労働組合を敵視し、組合を最後まで認めなかったことは有名です。私設警察・スパイ組織を作り、工場内に多数のスパイを潜入させ、労働者が組合の噂をしていないか四六時中監視させました。労働者同士が仕事中に私語を交わすことすら禁止され、違反者は即座に解雇されました。工場で、全米自動車労組が合法的なビラ配りを行おうとすると、雇われたギャングらが襲撃し激しい暴行を加えまた。フォードは自分が思う労働者像に叶う場合は高給を出し、気に食わなければ即解雇しました。現代ではアマゾンも労働者に対して同様な振る舞いを見せていました。
ここで成功している起業家の能力・性格について注意すべきことがあります。イーロン・マスクやピーター・ティールは素晴らしい能力を持っているが、自閉症傾向(アスペルガー症候群)が有り、シリコンバレーの起業家に多い。この傾向は、他者との意思疎通や感情の理解に困難をもたらす。従って、上述の二人の経営者にも言えるのですが、彼らは労働者、市民、弱者への共感に乏しい。ある心理学者は、経営者には社会性パーソナリティ障害が多く見られ、他者の権利を軽視し社会規範を守らない傾向があると言う。我々周辺にもブラック企業、ワンマン会社はあり、結構、成長しているケースがあります。つまり、共感力を持たないテクノ・リバタリアンは事業に専念してもらい、政治への直接参加は避けるべきなのです。
様々な経済理論
私は経済学の素人ですが、感心があり、この半世紀あまりの様々な奇抜な経済理論が生まれては消えていくのを見てきました。国の舵取りを大きく変える時に、学者に経済理論を並び立てられ、そちらは危険だ、こちらだと言われると返す言葉がない。しかし、実はほとんど失敗するか役立たずだったのです。幾つかの理論を簡単に振り返ります。
最近では、現代貨幣理論があります。これは「自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても破綻(デフォルト)しない」と言う、累積財政赤字トップの日本にとっては夢のような解決策です。数人の議員は、熱心に説き、大勢は無視です。私も惹かれますが、やはり怖い。提唱者は、通貨発行が大量になり、インフレが加速すれば、課税して抑え込めば良いと、唯一の欠点に対して、解決法を提示している。これが信用できない。理屈は簡単だが、政治的には簡単ではない。暗号資産についても同様の不安があります。暗号資産(仮想通貨)で良く言われるのが、ブロックチェーンは完璧なので贋金のような事態は起こらず、マイニング(実質的な通貨発行権)も管理出来ているので、順調に伸びるとされている。しかし、2016年、イーサリアムが約60億円ほど不正流出したのを皮切りに、その後も、様々な攻撃や不正流出が起きている。しかし最重要な事は、人類がこの300年間、国(中央銀行)が貨幣発行と管理で苦しんで来た経緯を考えると、雨後の竹の子のように、暗号資産が参入してくる事態は、とてもじゃないが許容できない。インフレ抑制のために貨幣供給量を減らすとか、失業者を減らす為に供給量を増やすとかの制御を個々にバラバラで適切に出来るはずがない。現状は、金儲けに目がくらんで、ねずみ講のように、先駆けた者が多くの利益を得られるからであり、今一つは資金洗浄の為に利用したいのでしょう。私には愚かな喧噪にしか映らない。
レーガン政権が当時華々しく喧伝した「ラッファー曲線」と言うのがありました。非常に単純で分かり易いものでした。これは税率を下げれば労働や投資の意欲が高まって経済が活性化し、最終的には税収が逆に増加するという主張でした。私はあまりの単純さゆえに驚いた。しかし、結果としてこの政策は巨額の財政赤字(と貿易赤字)をもたらすことになりました。失敗は、国防費の巨額増、議会に拒否された社会補償費削減、FRBの高金利政策による景気の落ち込みが、大きかったようです。この理論はサプライサイド経済学(供給側の経済学)の一部ですが、この逆がケインズのデマンドサイド経済学(需要サイド経済学)です。実は、この半世紀はこの学派が対立し、レーガン以降、それまでのデマンドサイド経済学に代わってサプライサイド経済学に取って代わられたのです。サプライサイド経済学は、減税や規制緩和により、企業の生産意欲や供給力を高める。「モノを作れば売れる」という考え方がベースにあります。デマンドサイド経済学は、政府支出(財政出動)や減税などで、人々の消費や需要を刺激する。「買いたい欲求(有効需要)が経済を動かす」という考え方がベースにあります。ニューディール政策はデマンドサイド経済学の成功例でした。現状の悲惨さは、サプライサイド経済学によると言えます。
これらの経済政策の失敗事例から学べる教訓は、経済政策や経済のコントロールは難しく、必ず修正が必要だと言うことです。しかも、修正の目的が国民の利益に叶うべきなので、民主主義が不可欠なのです。必ず、常時、民主主義体制が維持されている必要があるのです。独裁は絶対に避けなければなりません。
第5章 放置すれば最大の危機、どう対峙すべきか
前章では、米国の異常事態は、経済政策の失敗と富裕層に利する社会になってしまった事が大きいと論じて来ました。そしてそれを正常に戻すことも困難であることを見てきました。この章では、米国の今の状況を放置することが、米国民だけでなく、世界を破綻に陥れる可能性があることを見ていきます。この21世紀は、急激、暗雲が立ち込め、大きな波乱が襲うようなって来たのです。重要な危機について見ます。
1 米国が独裁国家へ向かう
私が一番恐れているのは、早ければ米国がトランプを首班にした独裁国家へと今年中に変貌する可能性です。彼は政権を牛耳り身を守る手口を日々露骨に使っています(悪行がバレないように職場のトップを挿げ替える)。また都合が悪くなると支持者を煽り不正選挙を正すとして議事堂占拠事件が起きました。これらがエスカレートしていくと、独裁者にならない方が不思議です。組織を担う者は、独裁が可能なら独裁の方が遥かに楽なのですから。特に強欲で、道徳感情が欠落し、虚偽を毎日に吐くような人物は、独裁に何の抵抗も無く、独裁者に適しています。
ここで矛盾した米国の現状に幻惑することになります。様々な心理学実験で、人は乳児から大人まで、嘘つきを嫌い、犠牲を払ってでも罰まで与えることが確認されています。これは、嘘つき(裏切り者)を排除しないと、社会集団が崩壊してしまうことから、長い進化の過程で脳に刻み込まれた強力な生存戦略の一つだと考えれているのです。ところが、毎日、大統領が嘘を吐いている事を知っていても、米国民の半数は気にもかけないのです。正に、独裁誕生前夜と言えるでしょう。これに似た事例がありました。
ヒトラー独裁を可能にする総統になれた経緯はあっけないものでした。1933年の選挙で、ナチ党288議席(得票率44%)でドイツ国家人民党52議席と連立を組み、ヒトラーは過半数を手にいれます。ここで都合よく国会議事堂放火事件が発生します。ヒトラーは、これを共産党のテロと断定し、ヒンデンブルク大統領を泣き落とし、大統領緊急命令を発令させ、共産党81議席を無効にします。この事件の真相は不明です。しかし、これではまだ憲法改正は不可能でした。そこで中央党(カトリック系)に、「教会の権利を守る」という約束で73議席を手にいれます。こうしてヒトラーは総議席数の2/3を手に入れ、素晴らしい憲法を改悪し、独裁権を手に入れ、この後、あれよあれよという間に、第二次世界大戦へと突き進んで、自滅したのです。不思議に似ていると思いませんか。違うのは、当時のヒトラーは、裏で残虐な事をしていましたが、表向きは誠実な人物と見られていたことぐらいでしょうか。それにしても政治のトップや政党は、何時の時代にも先を読めないものですね。
現時点でトランプの独裁化は道半ばを過ぎ、完成まで一息といったところでしょうか。最高裁と共和党を手懐け、熱狂する支持者達を従え、テクノ・リバタリアンとGAFAまで尻尾を振るようになっている。さらに20年以上裏で繋がっているプーチンが幾度もトランプを支援しており、これからも続くだろう。いつの世も独裁者同士は実に相性が良い。どうか、独裁に気をつけてください。
2 世界は戦争に向かう
現在、イランと米国、イスラエルとパレスチナ(ガザ)、そしてウクライナとロシアが戦争をしている。中国による台湾侵攻の可能性も否定できない。去年ぐらいまでは、ロシアが世界大戦の火種と思われた。しかしここに来て、米国とイスラエルが加わった。
過去の二つの大戦は、帝国主義に続く国家間の覇権争いの延長で始まり、次の大戦は疲弊した国家が始めました。実は、両大戦に共通していることがありました。一方が専制国家かファシズム国家で対峙したのは民主主義国家だった。開戦を仕掛けたのは、共に専制国家群(ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国)、ファシズム国家(ドイツ、日本、イタリア)でした。つまり。独裁国家が巨大な戦争を始める可能性が高いのです。それはロシアと続く米国です。
3 我々は如何にすべきか
世界と自国を、今、変革しないと手遅れになる。迫る危機と内部崩壊の状況を既に説明しました。この状況を救うには、第一に米国が独裁に走らないようすることです。今の米国に、自ら改正する力を期待できないと思う。この中間選挙で、またも共和党が過半数を取ると、トランプは自らを守る為に一気に独裁に向かうだろう。もう一つの悪いシナリオは、トランプと共和党が敵意を煽り、内戦状態が勃発することです。民主党が過半数を取るぐらいでは、状況の改善が期待でき無いので、混乱が続くことになる。共和党に、良識を期待出来ないと思う。
先進国はもっと鮮明に、トランプ政権に独裁や横暴を抗議する必要がある。日本が最も情けないのだが、世界には日本に好感を持っている国は多い。どうか、今こそ、自由民主主義を標榜する国々が協力して、米国にNOと言うべきです。カナダやスペインが孤立しながらも戦い、イタリアも反意を鮮明にしている。戦争では無い、常識を暴君に説くだけです。個々には弱いので、多くの国が集結し手を携えるのです。さすれば米国も、過ちに気づくかもしれません。現状であれば、米国民はトランプの実力(暴力)を評価するだけです。先進国首脳がこれぐらいのことをしなくてどうすのか。
トランプに退場して貰えば、次は、二つの事に、世界は進まなければならない。一つは、新自由主義的な政策を見直し、適正な規制と監督を行い、福祉政策により、文明崩壊の切っ掛けになって来た中間層以下の底上げを行う。次いで、世界が一致協力して、戦争防止、タックスヘヴン対策、気候温暖化対策などに進むことです。一国だけの新自由主義からの転換は、不可能とは言えないが、共に貿易や金融のシステムを変えて行かない限り、うまくは行かないでしょう。AIの対策も緊急を擁します。ここ一二年が勝負です。このためにもトランプの退場は絶対です。
家族と世界を再び幸福にしましょう!Make the world and people happy again!
第6章 参考
6-1.北欧に学ぶ
* 北欧の素晴らしさ
幸福度
北欧は毎年上位総なめです。幸福度の評価は、各国1000人にアンケートを答えてもらい、3年間の平均値を取ります。アンケートは、最高の人生を10、最悪の人生を0とし、回答者に自分の人生がどの段階にあるかを評価してもらいます。この値の多い方から順位を付けます。2024年の世界幸福度ランキングで、日本は143カ国中51位となり、順位を下げ続けている。
l一人当たりGDP
2024年、一人当たりGDPの世界ランキングは、デンマーク10位、日本38位です。左図の緑折れ線が日本で、唯一低下している。本来は微かに増加しているのですが、円安で落ち込んでいる。
所得格差
北欧は一人当たりGDPが高かく、かつ所得格差(ジニ係数)が低い。日米と比べると違いが分かる。北欧は比較的平等なのに、経済が成長し、所得も高いのです。
l世界競争力ランキング
北欧の競争力は世界トップレベルです。ノルウェーは通年10位に入っていることが多い。評価は経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラをさらに細かく計20項目で分析して行われている。かつて日本は1989-1992年に1位を獲得し続けたことがあった。現在、日本の競争力は対象67ヵ国中35位で低下の一方、評価項目で20位に入っているのは5項目に過ぎない。
l他の指標を見る
北欧の腐敗認識指数、民主主義指数、報道の自由度、ジェンダー平等指数は、総て日本より評価が高く、ランキングは上位にある。教育水準では、北欧と日本は同等と言えるようです。
lベンチャー投資
ヨーロッパで北欧のアイスランドとスウェーデンは多い。一人当たりベンチャー投資額の世界ランキングの1~10位はシンガポール、イスラエル、米国、スイス、UAE、英国、カナダ、スウェーデン、アイルランドでした。2024年、一人当たりベンチャー投資額は米国630$、スウェーデン270$、日本14.9$で、日本の投資総額は米国の124分の1、北欧の18分の1に過ぎない。これでは北欧に負けるのは当然だと思われます。
こうして見ると、北欧は幸福、社会の安定性、豊かさ、成長性総てを持ち合わせていることになる。北欧が半年以上雪に覆われることぐらいが欠点でしょう。経済社会の指標で日本が良いのは、低い失業率と肥満率、そして平均寿命が2年長いぐらいでしょうか。
* 労働市場での施策とシステム
就労を促す社会規範・社会制度、高い労働組合の組織率を背景とした労使協約重視の労使関係、労働移動を促進する様々な仕組みに特徴がある。
老後生活保障の基本となる年金制度は、給付が就労時の所得に比例する社会保険方式が基本にある。これは、社会保障制度の受益者に対して必要な職業訓練や人材投資によって労働市場に戻そうという考え方で、日本の就業率61%に対して、スウェーデンは76%ある(就業率=就業者数/15歳~64歳人口)。つまり多くの人が働いている。これは、賃金の男女差が少なく、女性の就業率が高い為だと考えられる。年間労働時間は、日本の方が12%ほど長い。一方、スウェーデンの失業率は7.6~8.3%で、日本2.5~3.6%で数倍高いが、前者は3ヵ月以内、後者は1年以上に失業者が多い。
スウェーデンの労働組合組織率68%に対して、米国は12%、日本も18%と非常に低い。これは、後者2ヵ国の政府が組合潰しを先導して来たことに一因がある。スウェーデンでは、組合員以外にも影響が及ぶ全国労働協約の適用率は9割といわれている。この高い組織率を背景に、かつて賃金交渉は、スウェーデン経営者連盟とスウェーデン全国労働組合連盟の間で、総括的に行われて来たが、現在は、徐々に産業レベルで行われるようになって来た。後にみるが、これは日本の企業内組合内での交渉とは、大きく異なる結果をもたらすことになる。
スウェーデンの労働移動は活発で、男性の平均勤続期間は10年ほど、日本の13年より短い、但し米国は4年ほどです。スウェーデンの若者は転職することに前向きです。これは労働組合が企業の整理解雇を容認する一方、職種毎の同一労働同一賃金により、労働者は転職による不利が無いからです。したがって日本のような最低賃金制はない。こうして転職を促進し、低生産部門を圧縮し、産業構造を高生産部門(高付加価値)へと拡大させていった。低生産部門の大量失業者を、積極的労働市場政策(教育と休業補償)によって、シフトを可能にしているのです。このことが、「アングロサクソン型(英米等)」とそれに追従する日本、つまり新自由主義国との差になってしまったのです。この北欧の産業転換を可能にしたのは、政策によって転職意欲を持つ労働者とマクロ的な経営者連盟と全国労働組合連盟の協議体制があったからです。この協議体制で産業転換も話し合われる。北欧などの労働者はキャリヤアップの為に、日頃から研鑽を積むことになるが、日本では、学校を卒業すれば学業はお仕舞いというわけです。歴史的な背景と政治状況が異なるので、日本の労働組合が北欧型に脱皮出来ないとは思うが、残念です。
整理解雇が自由な一方、企業が離職者の再就職に対して責任を果たしている。政府からの財政支援の無い民間団体が加盟企業の支援によって、その任を果たしている。
上記の施策やシステムの効果はどのようなものなか? スウェーデンの雇用調整スピードは日本より数倍高く、景気後退からの立ち直りの期間も数割早い。スウェーデンの賃金調整スピードは日本の6倍遅く、日本のように簡単に低下することはない。また、産業を跨ぐ労働移動はスウェーデンの方が活発に行われている。
スウェーデンでは、政権交代が行われ、現在、新自由主義が取り入れらているが、基本的な福祉国家としてのスタンスは変わらない。変わったのは、高福祉や充分な補助はモラル・ハザード(責任感の欠如)を招くとし、働くことへのインセンティブ(動機付け)を重視するようなり、転職時の休業補償期間の削減や、その手続きを実態に即したものにすることにより、失業期間の短縮に成功していることです。
北欧には学ぶべきものは多々あるのですが、基本的な考え方を知ってもらえれば充分です。このやり方で、あらゆる分野が日々革新され、世界トップ10の幸福度を満喫し続けているのです。
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