Tuesday, February 6, 2018

デマ、偏見、盲点 21: 抑止力と規制緩和に共通する危さ





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今、二つの危機、核戦争と経済破綻が迫っています。
しかし、この対処方法に真逆の説があり折り合いがつかない。
このままだと遂には破滅に至る可能性がある。
人々は漫然とかつて歩んだ道を進むのだろうか?


*抑止力と規制緩和に共通するもの

この2月2日には米国は核軍縮から小型核使用に方向を転じた。
また2月3日にはNYダウが1日で2.5%下落した。
これがリーマンショックを上回るバブル崩壊の始まりかどうかはまだ定かではないが、可能性は高い。

ある人々は、この二つは世界を破滅に導くと警鐘を鳴らす。
この破滅とは、核戦争と大恐慌(著しい経済格差と国家債務不履行も含む)です。

しかし一方で、これこそが破滅を防ぐ最善の策だと唱える人々がいる。
戦争を防止するには小型核、恐慌を回避するには景気拡大の為の規制緩和こそが絶対必要だと言うのです。

この二つの危機とその対処方法は一見次元が異なるように見える。
しかし、この二つの対処方法には不思議な共通点があります。
小型核は抑止力、規制緩和は自由競争を前提にしているのですが、実は共に相手(敵国や競合者)の善意を信じない一方で理性に期待しているのです。

抑止力は、敵意剥き出しの国がこちらの軍備力を的確に把握したうえで抑制出来る理性を有する場合のみ成立するのです(太平洋戦争時の日本軍が反証の好例)。
規制緩和は、個々の市場参加者が利己的に行動しても、市場全体としては最適な方向に落ち着くと信じているのです。
何か不思議な信念に基づいた論理なのです。

実際の社会は、悪意も善意も、感情的にも論理的にも動いているのですが。

さらにもう一つ、共通していることがあります。

例えば「抑止力は無効だ!」「自由競争は不完全で弊害が多い!」と否定したらどうでしょうか?
実は困って激怒する人々がいるのです。
前者では軍需産業、後者では金融業界や富裕層で、大きな実害を被るからです。
逆に否定して利を得る人々は特に見当たりません。

具体的に抑止力と規制緩和の危さについてみていきます。


 
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*抑止力の罠

兵器による抑止力は有効かと問われれば、「YES」ですが条件付です。

先ず、抑止力が有効な場面は身近な事から類推できるでしょう。
しかし抑止力が効かなくなる場合を理解することは少し難いでしょう。

単純に二つのケースがあります。
競合国(敵対国)が共に軍拡競争に突入した場合です。
一方が軍備増強を行えば相手は脅威を覚え、必ず軍拡競争が始まります(初期の米ソの冷戦)。
これは歴史上至る所で見られ、多くは大戦へとエスカレートしました。

もう一つは、兵器が無数に拡散した場合です。
分かり易いのは、米国の銃社会です。
国民一人に1丁以上の銃があることによって、銃による殺人事件や自殺が非常に多くなっています。
ここでは安易な兵器使用が抑止力の効果を上回っているのです(大国の中東などへの安易な軍事介入なども)。

この二つの例からだけでも、使いやすい小型核の普及は抑止力よりも危険の増大が予想できるはずです。

これに加えて、核兵器ならではの危険を増大させる要因があります。
一つは被害が非常に悲惨なことです。
このことは見落とされがちですが、多くの戦争は燃え上がる復讐心が高ければ高いほどエスカレートし、停戦は不可能になります。
だからこそ人類は悲惨な被害を与える対人地雷やナパーム弾などの兵器の使用を禁止してきたのです。
残念ながら世界は原爆の被害をまだ知らない(日本が先頭切って知らすべきなのですが)。

もう一つは、兵器のコストパフォーマンスが高いことです。
もし手に入れることが出来れば数億から数十億円で相手一国を恐怖に陥れることが出来るのです(抑止力と呼ぶ国もある)。
これまでは膨大な軍事費を賄える経済力こそが大きな抑止力を可能にしたが、核兵器なら小国でも可能になります。

結論は、小型核のような兵器は抑止力を期待出来るどころか、取返しのつかない状況に追い込んでしまうのです。
銃が蔓延し殺人が多いにも関わらず、銃規制が出来なくなってしまった米国がその好例です。

米国では治安と平和は高額で買うしかなく、金が無ければ治安が悪い所に住み、命を危険にさらさなければならないのです。
核兵器の下では、これすら不可能です。


*規制緩和の罠

規制緩和は経済活性化に有効かと問われれば、「YES」ですが条件付です。

皆さんの多くは規制緩和が経済を活性化させると信じているはずです。
一方で規制緩和が経済や社会に弊害をもたらす事例も数多くあるのですが、なぜか見えなくなっています。
これは今の日本で、有効だとする情報が大量に流されているからです。

幾つかの事例をみてみましょう。



 
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*米国の規制緩和がもたらしたこと

先ずは米国で40年近く行われて来た規制緩和が如何にバブル崩壊と経済格差を生んだかを簡単に説明します。
専門用語が出て来ますが、全体の流れを知って頂ければありがたいです。

1. 先ずストックオプションが1980年代から急増した。
これにより経営者は短期に高騰させた自社株を安く手に入れ、彼らの所得は鰻登りなっていた。
このことが企業経営を投機的で短期的なものにし、従業員との所得格差も開いた。

2.グラス・スティーガル法が1999年に廃止された。
この法律は1929年の大恐慌の再来を防止するために銀行業務と証券業務を分離し、投機行動を監視し抑制するのが目的でした(1932年制定)。
しかし、これが廃止されたことにより、監視が行き届かないシャドウバンキング(証券会社やヘッジファンド)が好き放題に投機をおこなった。

3.投機時のレバレッジ率が上昇した。
これは証券、商品、為替などへの投機時に自己資金の数十倍まで投資が可能になることです。
これによって投資家は価格が高騰した時は桁違いの儲けが出るのですが、暴落すると巨額の負債が発生し、バブルと崩壊が繰り返されることになった。
このことが2項の監視されない状況で起こった。
 
4.クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が2000年頃から急拡大した。
これは金融派生商品の一種ですが、リーマンショックの巨大なバブル崩壊を招いた大きな原因の一つでした。
これは金融取引時の損失を補償する新手の保険で、当時、危険な投資案件でも金融機関はこの保険があれば救済されると信じていた(赤信号皆で渡れば怖くない)。

バブル崩壊前年の2007年末にはその取引額は6800兆円になっていたが、6年間で100倍にも膨れ上がっていた。
この年の米国の名目GDPは1500兆円で、如何に膨大かがわかる。
当然、崩壊時の補償など出来るはずもなく、米国政府は税金と国債発行で300兆円を金融危機終息の為に注入せざるを得なかった。
出来もしない補償であろうがCDSを販売すれば儲かったのです(6800兆円の数%の手数料でも莫大)。

大雑把ですがポイントは以上です。
この悲惨な状況を生み出した最大の馬鹿げた理由は、貪欲な投機家や資産家、経営者達を野放したこと、つまり規制をしなかったことによるのです。
もうひとつ見落としがちなのは、資金力や情報力、政治力などの差により完全な自由市場などは存在しないことです。

この話は、少し分かり難いかもしれません。
しかし規制や取り決めがなく好き勝手にした為に社会が壊滅した事例は歴史上多いのです。



 
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* 歴史上、破滅した例

典型的な例はイースター島とアイスランドです。

人々が最初にこれらの島に入植した時は、木々が茂る緑豊かな所でした。
しかし、燃料などの為に伐採が進む内に自然は再生不能となり、イースター島では部族同士が激しく争い、人口は激減し、逃げ出すにもカヌーを作る木材さえなくなっていた。
アイスランドは木々の無い島となり、それこそ火と氷の島となったのです。


* 日本の事例

最後に日本の規制緩和の惨めな例を一つ挙げましょう。
労働者派遣法の適用拡大により、非正規雇用が拡大し続けています。

これも賛否両論があります。
ある人々は産業の競争力を高める為に、また産業や企業の盛衰に合わせ人材は流動的でなければならないと言う。
一方で、安易な首切りや低賃金の横行は基本的人権を侵害すると言う。

おそらく多くの人は、経済側の言に耳を傾け、泣き寝入りするするしかないと感じていることでしょう(これは日本人の奥ゆかしさかもしれない)。

この問題のポイントは是か非かではなく、どちらも正しいのです。
企業の競争力を高め、労働者の価値を高めるためには、人材の流動性が必要です。
当然、簡単に首を切られ、低収入や無収入に甘んじなければならないのは論外です。

つまり、労働者は失業中も収入が確保され、転職のための再教育や訓練が充分行われ、就職すれば当然、同一労働同一賃金であるべきなのです。

こんな夢のようなことは不可能だと思われるかもしれませんが、北欧(スウェーデン、デンマークなど)ではこれが当然のように行われているのです。

日本の悲しさは、産業競争力の責任を一方だけが背負い甘んじているのです。



 
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*まとめ

抑止力と規制緩和の問題点を簡単に見て来ましたが、ここで確認して欲しいことがあります。

抑止力については歴史的に見て完全なものではなく、むしろその強化を放置すれば災いを招くことがあったことを知ってください。

また規制緩和はここ半世紀ほど米国を筆頭に行き過ぎており、多くの問題が生じていることを知ってください。

抑止力と規制緩和の推進は軍需産業や金融業界、資産家に取って実に旨味のあることなのです。
東北大震災の福島原発事故のように、大きな産業と関係省庁が癒着してしまうと、体制維持に都合の良い情報だけが国民に流され続け、問題点が見え無くなってしまうのです。


* 日本が今歩んでいる道

 
< 6.銀行の金融資産と自己資本の比率、OECDより>

金融資産/自己資本は金融セクターの財務安定性を見るためのものです。
上のグラフ: 2004~2016年の金融資産/自己資本の推移。

多くの国、例えば英国、デンマーク、米国はリーマンショック後、健全化を進めているが、日本だけは悪化している。

下のグラフ: 2016年、この日本の比率はOECD35ヵ国の内、下位から
三番目です。

もし大暴落が始まればどの国が最も影響を受けるのでしょうか?



参考文献
「米国の規制緩和がもたらしたこと」に詳しい本

「世界金融危機」金子勝共著、岩波書店、2008年刊。
「世界経済を破綻させる23の嘘」ハジュン・チャン著、徳間書店、2010年刊。
「世界を破綻させた経済学者たち」ジェフ・マドリック著、早川書房、2015年刊。
「これから始まる『新しい世界経済』の教科書」ジョセフ・E・スティグリッツ著、徳間書店、2016年刊。






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